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気がつけば自発的に退職…驚愕の新リストラ法 人材会社使い「再教育」「隠れた才能」謳う

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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問題社員か経営失敗の犠牲者か

 労働者側の視点だけではなく、使用者側の視点からもリストラ問題を考えてみたい。リストラ対象になる人は、その社員に問題があるのか、それとも経営失敗の犠牲者なのだろうか。多くの現場を取材する筆者の肌感覚としては両方あり、事例によって異なる。人事や総務部門が「リストラの募集人数合わせ」にのめり込むと、時には間違って選ばれた優秀な社員も指名されてしまう。

 そもそも企業の本来の仕事から外された人は、多くの職場にいる。業績に余裕のある優良企業でも、自分勝手な仕事ぶりが上司の不興を買って業務を取り上げられた人もいる。

 歴史的に見ても「窓際族」と呼ばれる存在は1970年代からあった。ただバブル経済期までは、一日中新聞や雑誌を読んでいても給料がもらえた古き良き時代だった。これは出向先でも顕著で、特に役所の外郭団体には、のんびり過ごす中高年が目立った。それは現在もゼロではない。これもある企業の実例だが、終業時間近くにその会社に出向くと、終業のチャイムと同時に無気力社員やぶら下がり社員たちが退社し始める。

 また、退職金積み増しなどの条件で退職希望者を公募すると、辞めてほしくない有能な社員が応募してしまい、問題社員ほど辞めないという現象は、多くの職場で実際に起きている事実だ。

若手も「出世したい」より、「今の生活を守りたい」

 実は筆者が同誌に書いたもう1つの記事は『業界別、今年出世する人』というものだった。長年、人材開発に取り組む複数のコンサルタントを取材して、銀行や商社、小売りやITといった業種別に、出世するタイプを紹介したものだ。これにも反響が寄せられたのだが、反響度合いはリストラ記事には及ばなかった。

 人事関連セミナーを長年主催し、自らも講師として登壇する女性専門家はこう証言する。

「最近、若い人と話していると、『出世したい』『高い給与が欲しい』という攻めの気持ちよりも、『リストラされたくない』『安定していたい』という守りの気持ちのほうが強い。今の生活を大過なく維持したいという意識です。出世の記事よりもリストラの記事への反響が大きいのは、日本の経済情勢が不安定な表れともいえます」

 産業能率大学が毎年行う「新入社員の会社生活調査」で、新入社員に最終的に目標とする役職・地位を尋ねたところ、14年6月の調査では「社長になりたい」と答えたのはわずか9%で、90年の調査開始以来、初めて1割を切り、過去最低を記録した。「地位には関心がない」が41.5%と最も多かった。一方「終身雇用を望む」は76.3%と、こちらは過去最高だった。

 手の込んだリストラ手法が増えるかどうかはさておき、大企業が「本当に追いつめられる前に」リストラ対象者を選ぶ傾向は、今後も続きそうだ。安倍政権が進める政策との関連を指摘する声もあり、「リストラビジネスに関わる人材紹介会社には、事業拡大の好機となる」ともいわれる。経営者で政商といわれる人物の名前も取りざたされている。

 いずれにせよ、ビジネスパーソンには先が見えない時代。「自分は絶対に安泰」と言い切れる人は少ないだろう。もし、不幸にもリストラの当事者となったら、労働問題の専門家に相談したほうがよさそうだ。多様な情報も入手できるし、支払うコストの費用対効果も高い。

 もちろん、それ以前に自分の仕事の専門性を磨き続けて、「社外でも仕事ができる市場価値のある人材」になることが理想的だ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

●高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に、10月に発売された『カフェと日本人』(講談社現代新書)がある。これ以外に『「解」は己の中にあり』(講談社)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)など、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com

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