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リクルートのジレンマ「人材サービス世界一」掲げ海外M&A、買収費用が収益圧迫

文=編集部
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リクルートのジレンマ「人材サービス世界一」掲げ海外M&A、買収費用が収益圧迫の画像1リクルートホールディングス本社が所在するグラントウキョウサウスタワー(「Wikipedia」より/Kure)
 今年1月、豪州の人材派遣会社であるチャンドラーマクラウドとピープルバンクの買収を発表した、リクルートホールディングス(HD)。買収金額は合計約360億円で、2014年10月に東京証券取引所に株式を上場してから初の買収案件となる。この買収によって、リクルートHDは派遣事業の成長が見込まれる豪州市場に本格参入する構えだ。

 チャンドラーは、豪州の人材派遣業界で第2位の規模を誇る。14年6月期の売上高は約1330億円で、リクルートHDによる買収金額は約289億円だ。同社は上場しており、現地法に基づく手続きを経て、4月中旬に買収が完了する。

 同5位で非上場のピープルバンクは、ITに特化した人材派遣を手がけており、14年6月期の売上高は約490億円だ。買収金額は約71億円で、1月末にリクルートHDが同社の全株式を取得した。

 両社が連結決算の対象となるのは16年3月期以降のため、今期への影響は限定的だが、この買収によって、リクルートHDは豪州の人材派遣市場でシェア2位となる見込みだ。

「第三の創業」の目標は人材サービス世界一

 今、リクルートHDは第三の創業期にある。第一の創業は創業者の故・江副浩正初代社長が1960年に大学新聞広告社を立ち上げた時だ。第二の創業は、リクルート事件で退いた江副氏に代わって大株主になったダイエーから、リクルートHDが株を買い戻した00年頃だろう。そして、第三の創業は昨年の株式上場であり、リクルートHDはこれを機に20年には人材サービスで世界一になることを目指している。

 リクルートHDは14年10月16日、東証一部に株式を上場した。初値は3170円で、初値を元にした時価総額は1兆8100億円と上々の滑り出しだった。

 そして、株式の公開によって約1000億円の資金を調達した。峰岸真澄社長兼CEOは「市場からの資金調達と借り入れを合わせて、7000億円の投資が可能になった。1000億円以上の買収もあり得る」と語り、海外でのM&Aを積極的に行う考えを示した。

 08年のリーマン・ショック以降、市場縮小が続いている人材派遣業界で、リクルートHDは海外進出に舵を切った。10~12年に米国の人材派遣会社3社と求人検索会社を買収、米国の人材派遣会社は欧州でも事業を展開しており、今回の買収で未着手だった豪州に進出することになる。

 リクルートHDの15年3月期の売上高の見込みは、1兆2900億円だ。豪州2社の買収で今後、1800億円強の売り上げが上乗せされるので、1兆5000億円台が視野に入る。だが、世界首位のアデコ(スイス)、同2位のランスタッド・ホールディング(オランダ)、同3位のマンパワーグループ(米国)の売り上げは2兆円を超えており、海外の大手3社の背中はまだまだ遠い。

 20年に世界一になるという目標を達成するためには、さらなる海外企業の大型M&Aが不可欠だ。しかし、そこには難関が立ちはだかる。

大型M&A加速の懸念から株価は低迷

 最近、リクルートHDの株価がさえない。株式上場後、売り出し価格(3100円)を上回る人気となり、14年11月12日には4015円の最高値をつけた。しかし、それをピークに下落する。

 株価が暗転する材料になったのは、14年9月中間期の連結決算だ。売上高は前年同期比10.4%増の6173億円だったが、営業利益は3.2%減の534億円、最終利益は4.1%減の284億円と減益決算だった。

 求人情報サイト「リクナビ」や結婚情報誌「ゼクシィ」などが好調で大幅な増収だったが、海外企業のM&Aを加速させた影響から、のれん代の償却や減価償却費が膨らんだために減益になった。

 中間決算の発表後に株価は下落し、今年に入ってからも3400円前後で推移しており、4000円台に駆け上がった頃の勢いはない。

M&Aで大きな負担になる「のれん」代の償却

 グローバル市場で成長を図るためには、M&Aは避けて通れない。ただ、M&Aを行えば売り上げは増えるが、のれん代の償却という重荷を背負うことになる。

 のれん代とは、企業を買収する際に支払った金額と、買収先企業の純資産の差額である。日本の会計基準では20年以内に毎期、定額償却する必要がある。リクルートHDは日本の会計基準を採用しているので、のれん代を毎期償却してきた。

 のれん代の償却額は、13年3月期251億円、14年3月期360億円で、今期は370億円に膨らむ。その結果、15年3月期の当期利益は、償却前は1030億円だが、のれん代の償却後は660億円になる見込みだ。

 14年9月末時点で、のれん代の残高は1710億円ある。これは、過去のM&Aの分であり、16年3月期からは豪州2社の分が加わる。今後、海外M&Aを加速させれば、さらにのれん代の償却負担が増え、収益を圧迫することになるのだ。

 販促メディア事業(住宅、結婚、自動車、進学の情報)や人材メディア事業(求人・紹介)でいくら稼いでも、M&Aによるのれん代の償却で利益が目減りしてしまえば、「いったいなんのためのM&Aか」と疑問視する向きは増えると考えられ、峰岸社長の経営力が問われるところだ。

4~12月期は12%の最終減益

 今年2月13日に発表した14年4~12月期の連結決算は、純利益が前年同期比12%減の485億円だった。企業の新卒採用活動の解禁時期が12月から翌年3月に繰り下がった余波を、「リクナビ」が受けた影響だ。「リクナビ」はこれまでは10~12月が書き入れ時だったが、日本経済団体連合会の新しい指針により、就職活動のスタートが3カ月遅れた結果、4~12月期の営業利益は同10%減の884億円となった。事業別では「リクナビ」をはじめとする人材メディアが伸びず、人材派遣だけでは補いきれなかったかたちとなる。

 15年1~3月期には利益をかさ上げできるとして、通期(15年3月期)は増益を見込む。株式を公開したばかりで、通期で減益決算というわけにはいかないだろう。通期の業績見通しは従来予想を据え置いており、売上高は1兆2900億円(前期比8%増)、純利益はIT分野への投資が増えたことによる減価償却増もあり、1%増の660億円にとどまる。今後は、豪州2社の買収がどう出るか、その動きに注目が集まりそうだ。
(文=編集部)

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