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稲田将人「RE -Engineeringの経営学」(第1回)

大塚家具騒動、父娘の「純粋な使命感」が招いた問題の本質 ロボット軍団を生むワンマン企業の罠

文=稲田将人/RE-Engineering Partners代表取締役、経営コンサルタント
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●市場と事業の実態、事業プランの「見える化」が答え

 ここでの一番の問題は、双方の議論がいわゆる「空中戦」状態になっている点です。どんな事業でも、事業方針として選び得る選択肢は数多く存在します。価格の高い市場を狙うか、低い市場を狙うか。新業態のテストを行うのか、あるいは社内のパワーを現業態の強化に集中するのか。さまざまな選択肢の中で何を採用するのかについては、その事業を任されたCEOが決めて、舵を取っていくことになります。

 しかし、特に大塚家具のように事業承継の真っただ中の局面においては、事実に基づいた分析などで、上手に「見える化」された土俵の上で、経営陣の合意を取りながら進めるという手順が求められるものです。

 実は、市場や事業の現状、全体像というものは、ちょっとしたテクニックさえ知っていれば、かなりわかりやすく「見える化」することができます。

・今の大塚家具には、どのような所得層、どういう購買動機を持った客層が来ているのか
・大塚家具が想定する顧客層に該当するにもかかわらず、来店していない顧客層はどれだけいるのか、その理由はなんなのか
・その層の何割かが来店するようにできれば、売り上げはどのくらい伸ばすことができるのか
・コンシェルジュ接客はまったく望まず、単にふらっと「良いものがあるかな」というカジュアルな動機で来店し、良いものがあれば顧客になり得る「宝探し」動機の顧客は、家具市場にどのくらいいるのか、その潜在市場規模はどのくらいなのか
・仮に、その「宝探し」商品に売り場の一部を割くとすると、高級家具を減らした分だけ、どのくらい売り上げ減が見込まれ、逆に「宝探し」商品はどれくらいの売り上げを生むことができるのか
・「宝探し」売り場をつくると、どれだけ従来の大塚家具の顧客が離反したり、悪い印象を持つ可能性があるのか

 ある程度の能力を持ったスタッフや参謀機能を社内や外部スタッフとして使うことができれば、調査を設計し、上記くらいの分析と「見える化」を行うことは難しいことではありません。一見つかみどころのない、ブランド、イメージの議論も、上手な調査さえ行えば、しっかりと把握することは十分可能です。

 これは「キレキレ」の、メッセージが明確な事業方針資料が作成できていることとはまったく別の話です。今回、中長期計画として発表された資料では、数字の分析は伴っているものの、おそらく、勝久氏からすれば「そんなにきれいに資料をまとめたって、商売はうまくいくものではない。どの客層の何割を獲得できると読んでいるんだ」などの、さまざまな疑問点を払拭するには至っていないのだと推察します。

 一般論ですが、1000億円に近い数百億円規模の事業を作り上げた創業者は、こういう数字の読みやシミュレーションに強い傾向があるものです。つまり、大塚家具をよくしたいという同じ思いの2人に必要なのは、市場の実態を事実に基づいて「見える化」して、戦略の議論の土台をつくる話なのです。

 もちろん、多くの内容は仮定に基づいた「見える化」ですが、8割程度は正しい分析をすることができます。そして、少なくとも「何を根拠に正しいと言っているのか」という議論を行うことができます。結局、こういう戦略方針を検討する体制を持っていないこと、つまり経営の意思決定にあたって必要な、健全なスタッフや参謀機能を育てていない、有していない、動かせていないことが、大塚家具の問題の本質なのです。

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