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日向咲嗣『「無知税」回避術 可処分所得が倍増するお金の常識と盲点』第13回

首都圏で1千万円以下の戸建住宅が続出、新築も投げ売りで1千万円台の価格破壊

文=日向咲嗣/フリーライター
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 それでも、すでに破格とも思える1380万円の物件が、簡単に安くなることはないだろうと期待半分、あきらめ半分といった心持ちで待ったところ、数日後、営業マンから「1000万円は無理でしたが、1100万円ではどうでしょうか」と連絡が入った。

 1380万円でも安いと思っていたHさんにとって、異論があろうはずはない。快諾したが、さらに数日後、「1100万円で、売り主は売却を承諾されました。ただし、引越代をプラスしてほしいとのことです」と打診されたが、Hさんにしてみれば、20~30万円の引越代を上乗せするくらいは、断る理由にならず、売買の話はトントン拍子に進んだ。

 ところが、いよいよ契約締結という段になり、突然、白紙撤回された。

「申し訳ありません。債権者である金融機関担当者の承認が取れませんでした。もちろん、事前に内諾は得ていたのですが、1100万円では競売にかけたほうがいいと方針転換されてしまいました」

 これが任意売却物件の怖いところでもある。いくら売り主が承諾しても、貸したお金を1円でも多く回収したいという債権者がノーと言えば、従わざるを得ないのである。

インサイダー情報を得た競売に参加

 人間の心理というのは不思議なもので、最初は、「安く買えればラッキー」という程度の軽い気持ちのHさんだったが、一度購入するつもりになった物件が手に入らないとなると、「なんとしても手に入れたい」と思うようになってきた。

 そこでHさんは思い切って競売に参加することにした。裁判所のホームページで根気よく探していたところ、あの物件が競売に出された。裁判所がつけた売却基準価額(その8割以上で入札可能)は800万円。その2割の「買受申出保証額」を現金で納めることができれば、誰でも競売に参加できる。

 一般的な競売物件は内見ができず、裁判所の開示情報から判断するしかない。どんな占有者がいるのか、明け渡しに応じるか、ヤバイ筋の人が占有している可能性もある。不透明な部分が多く、そのリスクを承知で入札に参加しなければならないのだが、Hさんの場合は、任意売却時に内見も済ませており、所有者がごく普通の人であることもわかっている。

 そこでHさんは、裁判所に160万円を振り込んだうえで開札結果を待った。数週間後、開札日に緊張しながら裁判所の競売ページにアクセスしたところ、結果は残念ながらHさんがつけた1200万円よりも、わずか5万円高く入札していた人物が落札した。

 2度あることは3度ある。Hさんが数カ月後に不動産情報サイトを検索していたところ、落札を逃した物件が再度売りに出ているのを発見したのである。

 落札していたのは地場の不動産業者だったらしく、競売で仕入れた物件に少し手を加えて転売していたのである。その価格は、落札額よりも700万円近く高い1890万円。「一部クロスを張り替えた程度でそんなに高くなるとは、おいしい商売だな」と驚いたHさんだったが、話はそう単純ではなかった。

 その近所にパワービルダーの新築物件が次々と建築され、いつまでたっても例の物件は売れずに不動産情報サイトに掲載され続けていた。さらに、2000万円台で売り出されていたパワービルダーの新築物件が次々と値下げを断行し、最終の1棟に至っては投げ売り状態の1680万円となってしまった。

 こうなると、中古物件を落札した不動産業者は、落札した時と同じくらいの値段にしないと売れないだろう。つまり、赤字は避けられない。

「落札できなくてよかった」と胸を撫で下ろしたHさんは、身をもって“不動産デフレ”の怖さを思い知ったのである。
(文=日向咲嗣/フリーライター)

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