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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」(4月14日)

ネットは生産性を上げなかったどころか、個人の時間を奪い、一握りの企業にしか富を与えず

文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授

 ネットはテレビみたいなものなのだ。「アラブの春」に象徴されるように、ソーシャルメディアは多くの人を結びつける。「ネットが革命をもたらした」と、あまりに騒がれたために、私たちはネットがメディアであること、つまり何かと何かを結びつけることが役割であるという事実を忘れていた。人が集結した結果が民主主義に結びつかなかったのはネットのせいではなく、結びついたあとのフォローができなかった人間のせいなのだ。

ネットとモノの結びつきによる生産性の向上

 ネットに生産性が認められるようになったのは、つい最近、モノ(物理的世界)と結びついたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)が注目を集め始めてからだ。さまざまなセンサーを装備したモノが、ネットによってコンピュータに結びつき始めたのだ。

 例えば、ゼネラル・エレクトリック(GE)は140万の医療機器と2万8000基のジェットエンジンに対し、合計1000万個のセンサーを取りつけ、日々5000万件のデータを収集し分析している。これにより、総額1兆ドルの資産である設備や機器を効率よく安全に稼働させ、機械の維持や事故を未然に防ぐのにも役立てている。

 ネットは、モノに結びついて初めて実質的な、他産業に波及する経済効果をもたらすことができるようになったと聞くと、ある意味ホッとする。デジタルな世界にとどまったままのネットビジネスで富を得たのは、GoogleやFacebookといった企業と、その創業者に限られていたからだ。私たちはネットという目に見えないヴァーチャルなものの威力を、力のスケールという意味では過小評価し、力の本質という意味では過大評価していた。

 ネットは、私たちの生活に便利さという素晴らしい贈り物を提供してくれた。しかし、ネットが物理的世界とつながることなく、ヴァーチャルなデジタル世界だけで物事を完了している限りは、社会の不安定さを増長する傾向がある。

 例えば、2008年に金融危機が発生した要因のひとつに、ネットによる過剰な相互結合や相互依存を挙げることができる。ネットが存在していなかったら、信用危機の問題は発生したであろうが、その地域範囲も規模も限られたものになっていたことだろう。ネットによって「ポジティブフィードバック」と呼ばれる、株価が上がれば追随して買い株価が下がれば追随して売る投資行動が瞬時に全世界に感染伝播した。

 本来なら株価が上がれば多くの投資家は株を売る。こういったネガティブフィードバックによって株式市場は自己調整がなされ、常に均衡が保たれる。ところが、ポジティブフィードバックが発生するとどうなるか。他人の行動に釣られて理性的に判断することもなく、株価が上がった時にその株を買い、株価が下がればその株を売るという異常な状況に陥る。株でも土地でもチューリップでも、投資行動にポジティブフィードバックが発生するとバブルが起こる。

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