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井上隆一郎「アジア自動車産業 競争的分業体制への歴史的転換」

アジア自動車産業 競争的分業体制への歴史的転換(前編) 産業体制の前提条件が大きく変化

文=井上隆一郎/東京都市大学都市生活学部教授
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 タイはASEAN域内で類を見ない自動車生産国であり、域内においてその規模の経済による競争力は極めて強いといえる。これに匹敵するのは、後述する人口が最大規模のインドネシアくらいであって、乗用車生産で先行していたマレーシアでさえも太刀打ちできない。ましてや、かろうじて自動車を生産しているフィリピンやベトナムは足元にも及ばない。

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前提条件の構造的変化

 しかし、15年末AEC成立後の状況を考えてみると、タイ一国に自動車生産が集中する体制は考えにくい。その理由として第1に、タイ国内労働力不足の表面化である。これは成功ゆえの問題の発生といえよう。第2に、域内の巨大生産国、インドネシアの台頭の可能性である。

 成功ゆえの問題として、タイ国内の労働力不足が深刻化している。成長著しいアジア新興国一般では、失業率は概して4-6%の水準であるが、タイは実に0.73%となっており、実質的な完全雇用状態といえる。そのため労賃が高騰しており、賃金の国際比較を見ると、バンコクの一般工レベルでジャカルタやバンガロールの2倍、ヤンゴン、ビエンチャンの3倍から5倍に跳ね上がっている。さらに仮に高い賃金を払っても、なお労働力が集まらない状況が現実のものとなっている。

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 このような状況を受けて、タイを「陸のASEAN」の産業ハブとする戦略として、カンボジア、ラオス、ミャンマー(CLM)を含めた生産分業体制の構想が急がれている。CLMへの労働集約産業、労働集約工程の移管を進める動きも表面化している。ただし、これとても課題が大きいといわざるを得ない。国境地帯にはインフラはおろか、人口集積もなく、生産の諸条件が短期的には整わないことである。長い目で見れば、国境地帯にとどまらず、CLM各国への生産移管の流れは間違いなく進むと思われるが、調整、実現のためには時間を要するものと考えられる。

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 さらに加えて、新たにタイ以外の生産国の台頭にも注目しなければならない。短中期的にフィリピンやマレーシア、さらにはベトナムが自動車生産規模を拡大する条件は整わないであろう。これらの国々は、むしろ再編の中で生産規模は縮小していく可能性すらある。

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