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町田徹「見たくない日本的現実」

関電原発差し止め、事実誤認だらけの仮処分決定 狭い視野と不可解な人事、司法の信用失墜

文=町田徹/経済ジャーナリスト

 また、「活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、『私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある』と答えている」と指摘。「万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を地震の平均像を基に策定することに合理性は見い出し難い」と不信感を露わにした。

 さらに、電源喪失事故を予防する観点から、「使用済み核燃料プールの冷却設備は耐震クラスではBクラス」と、不十分であると決めつけた。加えて、「外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする」対策が必要だと是正を求めた。

 新規制基準そのものにも言及し、「求められるべき合理性とは、基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容」だが、新規制基準は「緩やかにすぎ、これに適合しても本件(高浜)原発の安全性は確保されていない」と突き放した。

 極め付きは、川内原発をめぐる田中委員長の過去の発言に対する評価だ。「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない」と述べたことを取り上げて、「安全に向けてでき得る限り厳格な基準を定めたがそれでも残余の危険が否定できないと解することはできない。文字通り基準に適合しても安全性が確保されているわけではないことを認めたにほかならない」と決めつけたのだ。

 以上のような理由から福井地裁は、「250km圏内に居住する債権者らは、直接的に人格権を侵害される具体的な危険がある」として、高浜原発の運転を差し止める仮処分を下したのである。

田中規制委委員長は徹底反論

 だが、樋口裁判長が信頼できないとした4原発5例の地震動は、いずれも旧原子力安全・保安院時代の基準に基づいて算出されたものにすぎない。田中委員長も記者会見で、「700ガル未満でも炉心溶融が起きて重大事故につながると言っているが、そういうことにならないように、まず基準地震動を決めるところで相当厳しい規制をしています。仮に、それを超えたからと言って、炉心溶融につながらないようにシビアアクシデント対策も求めている」「まさに従来の基準地震動を超えたという苦い教訓をきちっと踏まえている」と以前との違いを説明した。

 また、新聞からの伝聞情報として決定文が取り上げた入倉教授発言は、15日付福井新聞インターネット版が「差し止め決定文に『曲解引用』 困惑する地震動の専門家」という記事を掲載するなど、本人の意思に反して発言が歪んで報じられたことが明らかにされているものだ。田中委員長自身は、「(地震動の算出を)平均でやっているということで、入倉先生の引用がありますが、先生はそんなことはありませんとほかで語っているようですので、事実誤認ですね」と、やんわり指摘した。

町田徹/経済ジャーナリスト

町田徹/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
1960年大阪生まれ。
神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業。日本経済新聞社に入社。
米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。
雑誌編集者を経て独立。
2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。
2019年~ 吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員
町田徹 公式サイト

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