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横川潤「外食万華鏡」

タコベル、日本で大成功するのは極めて難しいといえる理由 実店舗より考察

文=横川潤/文教大学准教授、食評論家

 その第一の理由は「メキシコ料理」という点。メキシコはアメリカと長い国境線で接している「隣国」である。メキシコを始めとするスペイン系移民をヒスパニックと称するが、今や彼らは全米の総人口の15%強、5000万人を数えるまでになっている。従ってタコベルは膨大な数のヒスパニック系、およびその料理に幼い頃から親しんできている「それ以外の」アメリカ人という巨大なマーケットを抱えている。

 第二の理由は「価格」だ。日本のタコベルはおおむね、単品で500~600円台、セットにして700~800円台である。一方でアメリカのタコベルは「1ドルフェア」を実施していて、実はその前には「WHY PAY MORE?(そんなに支払う必要ないだろ?)」フェアで、驚くなかれ79セント、89セント、99セントという商品ラインアップを打ち出していたのである。要するにマクドナルドと十分に張れる客単価なので、日本のタコベルは「アメリカとは別のチェーン」と考えるほかはない。

 これはアメリカのアパレル業界で向かうところ敵なしだったGAPが、日本では本国の数倍という平均単価で出店した結果、つまずいた事例を思い起こさせる。日本には価格帯でアメリカのGAPに相当するユニクロがすでに人気を博しており、結局はその牙城を崩せなかったのである。逆に言えば仮にGAPがユニクロ並みの価格で日本に上陸できていたならば、今日のアパレル勢力図は違ったものになっていたかもしれない。

 そして第三の理由は上記2つともに関連するが、アメリカで大成功したビジネスであっても、殊に日本の外食産業で成功できるとは限らない、という点である。一時的に話題を巻き起こし長い行列が生まれたにせよ、ビッグビジネスに結びつく例は稀で、全米第2位のハンバーガーチェーンであるバーガーキングをはじめ、うまくいかなかった例は枚挙に暇がない。

 成功例はマクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、デニーズなどごくわずかに限られる。しかもこの3社とも日本のマーケットに合わせるべく、その立地選択やマーチャンダイジングは本国と大きく異なり、「第2の起業」と等しい工夫と努力が要されたのである。

 またスターバックスも成功例に含まれようが、当時としては無謀とも思われた、超一等地への短期集中出店(ドミナント戦略)が奏功したためである。これも「第2の起業」というにふさわしい決断と実行の成果と考えられる。

 個人的にはタコベルは成功したほうが望ましいと思っている。とりあえず消費者の選択幅が増えるし、日本の外食シーンが活気づくきっかけにもなるだろう。ただし、そのためには「第2の起業」という決意と実行が求められる。厳しい戦いを強いられることは疑いないが、ともあれゲームはまだ始まったばかりだ。
(文=横川潤/文教大学准教授、食評論家)

横川潤/文教大学准教授、食評論家

横川潤/文教大学准教授、食評論家

文教大学国際学部国際観光学科准教授。1962年、長野県生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得
横川 潤 亜細亜大学

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