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スズキ、揺らぐ独立 トヨタによる買収、現実味高まる

文=編集部

スズキ、揺らぐ独立 トヨタによる買収、現実味高まるの画像1スズキの鈴木修会長兼社長
 2014年度(2014年4月~15年3月)において世界新車販売台数でトップに立った独フォルクスワーゲン(VW)の、権力闘争の実態が明らかになった。VW監査役会長のフェルディナント・ピエヒ氏(78)がメディアに最高経営責任者(CEO)の交代を示唆する発言をし、CEOのマルティン・ヴィンターコーン氏(67)と対立した。結局、ヴィンターコーン氏が勝利して、ピエヒ氏が4月25日付で辞任した。

 オーナー一族を巻き込んだ“お家騒動”はひとまず幕を閉じたが、ピエヒ家の大株主としての地位は変わらない。VWの議決権付き株式は、独ポルシェの創業家であるポルシェ一族とその縁戚のピエヒ一族で51%を保有している。しかし、経営幹部の任免権は20人で構成される監査役会にある。このうち半数の10人が被雇用者側の代表であり、VWの本社があるニーダーザクセン州政府も2人分の投票権を持つ。今回、被雇用者の代表である従業員協議会メンバーやニーダーザクセン州政府などがヴィンターコーン氏を支持した。

 ピエヒ氏は20年以上実力者としてVWに君臨し、これまで同社のトップ人事は同氏の鶴の一声で決まってきた。ヴィンターコーン氏の前任者であるベルント・ピシェッツリーダー氏は06年、ピエヒ氏に解任されている。優れた戦術家であり、この種の権力闘争は常に勝ちを収めてきたピエヒ氏だが、今回は無理筋だった。

 というのも07年、ヴィンターコーン氏がCEOに就任して以来、VWの売上高は倍増し、2000億ユーロ(約26兆円)を突破。純利益は4倍に増えている。それでも手を緩めず、14年に中核の乗用車部門の利益率が低いことを理由に、50億ユーロ(約6400億円)の経費削減に乗り出している。マイナス点があるとすれば、VWにとって重要な市場である米国での販売台数が減少していることだろう。

 VWの監査役会は事態を収拾するために4月16日、緊急理事会をザルツブルクで開催。翌17日、同理事会はヴィンターコーン氏を支持するという声明を発表した。理事会は声明の中で「(ヴィンターコーン氏は)望み得る限り、最も優れたVWのCEOだ」と述べ、同氏の契約を延長するよう監査役会のメンバーに勧告した。17日はピエヒ氏の78歳の誕生日だったが、「予想外の大敗北」を喫したことになる。

 今回の内紛のあおりを受けるかたちで、ピエヒ氏が12年にVWの監査役に据えた妻のウルズラ・ピエヒ氏(58)も辞任した。最高意思決定機関の監査役会に残るピエヒ家出身のメンバーは1人だけになった。VWの監査役会ではベルトルト・フーバー副会長(65)が暫定的に会長を務め、ヴィンターコーン氏を中心とした新体制作りが進むものとみられている。

ピエヒ氏の後任は?

 ただ、今回勝利したヴィンターコーン氏がピエヒ氏の後を継ぐ可能性は極めて低くなったという指摘が、VW社の内外から出ている。第2位の株主のニーダーザクセン州はCEOの任期延長を支持したが、第3位の株主であるカタール政府系投資ファンドは反対にピエヒ氏を支持した。ヴィンターコーン氏は、ピエヒ氏と同じアウディ社長を経験している。ピエヒ氏が07年にVW社長に引き上げ、ずっと盟友とされてきた。それだけに、ピエヒ氏がヴィンターコーン氏切りに動いたこと自体が衝撃だった。

 そもそも、ヴィンターコーン氏の任期延長が正式に決まるのは16年2月である。VWのCEOの若返りが今回の内紛劇で早まるとの観測もある。ポスト・ヴィンターコーンの最短距離にいるのは、傘下の高級車メーカー、ポルシェAGのマティアス・ミューラー社長(61)だ。14年からVWの取締役を兼務して生産改革を主導、VWの子会社になったポルシェに移り、ポルシェをVWグループの営業利益の2割を稼ぐまでに育てた。

 一気に若返りを狙うのであれば、傘下のシュコダ(チェコ)のヴィンフリート・ファーラント社長(58)やVW開発担当のハインツ・ヤコブ・ノイサー取締役(54)も有力だろう。技術系社長であれば、ノイサー氏の師匠に当たるアウディのウルリッヒ・ハッケンベルク取締役(64)も候補だ。ハッケンベルク氏は、VWグループの開発のドンといわれている。

 外様の候補もいる。7月にVWの乗用車部門のトップに就くヘルベルト・ディース氏(56)は、昨年末まで独BMW(バイエルン発動機)の開発部門を率いてきた。2月には独ダイムラーで商用車部門を長く牽引してきたアンドレアス・レンシュラー氏(57)がVWの取締役(商用車担当)に就いた。今回、監査役会会長を退いたピエヒ氏は02年にBMWの社長を経験したベルント・ピシェッツリーダー氏を自分の後任としてVW社長に据えており、外様がVW社長に就く可能性はゼロではない。

 VWの株式の20%を握るニーダーザクセン州のシュテファン・ヴァイル首相は「我々は、現CEOに多大な信頼を寄せている。この1週間の議論は、VWにとって良いことではなかった。(議論は)終わりにすべきだ」と語った。VWの従業員協議会代表で監査役会メンバーでもあるベルント・オスターロー氏は、「我々はヴィンターコーン氏とともに、現在のうまくいっている路線を、このまま継続する。彼こそ、この仕事(CEO)の適任者だ」と述べた。

 4月27日付英フィナンシャル・タイムズは『ピエヒ氏辞任が示した、VWの埋めがたい後継者不在』と題する記事において、「ピエヒ氏のいないVWは、スティーブ・ジョブズ氏なきアップルのようだ」と評している。同紙によると「ピエヒ氏はM&A(合併・買収)によって12もの自動車のブランドを集めたが、それでもなお、米国のトラック会社やイタリアの高級車メーカーの買収に意欲を見せていた」という。

ポスト・ピエヒでスズキとの関係はどうなるのか

 VWとスズキ資本提携解消をめぐる話し合いがこじれ、11年11月にロンドンの国際商業会議所国際仲裁裁判所で仲裁手続きを開始した。お互いに一歩も譲らず長引いていたが、裁判はいよいよ大詰めを迎えている。争っていた3年間に、自動車業界の地図は大きく塗り替わった。このまま資本提携を続けていても、両社にとって何のメリットもないことがわかったからだろう。

 スズキがVWと提携したのは、HV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)などエコカーの技術開発で取り残されるのではないかという恐怖感からだった。だが、現時点ではHVやEVは自動車の主流になっていない。

 スズキが主戦場としている新興国市場では、安いエンジン車をどう売るかで勝負が決まる。スズキは自前の高性能なエンジンの設計技術を使って、競合に負けないクルマづくりができるようになった。小型車の「スイフト」は、他社の追随を許さない低燃費を達成した。

 一方のVWは、スズキの低コストでつくれる小型車開発のノウハウが欲しかったが、今や自前でコストを引き下げて、いいクルマをつくれるようになった。両社は、お互いに利用するメリットが薄らいできたのである。

 こうした両社の事情もあって、1株当たりの売却価格を上乗せするなどスズキ側がペナルティーを払い、VW側から株式を買い戻すことになるとの見方が強まっている。買い戻しに備えて、スズキは自社株取得枠を再設定した。

 裁判が終われば、スズキは新たなパートナー探しが喫緊の課題だ。提携相手として、伊フィアット・クライスラー・オートモービルズの名前が挙がる。それはセルジオ・マルキオンネCEOがスズキとの提携拡大に意欲的なことが大きな要因だ。持ち株会社のもとにフィアットと米クライスラーを置き、マツダとも提携している。フィアットはディーゼルエンジンをスズキに供給しており、フィアット、クライスラー、マツダの連合にスズキが加わるという筋書きだ。

 かつて資本提携していた米ゼネラルモーターズ(GM)と、よりを戻す可能性もある。GMは業績が回復し、インド市場を押さえているスズキに魅力を感じているようだ。

 もしVWの主張通りに、同社によるスズキ株式の継続保有を認める裁定が下されれば、スズキは防衛策を講じる必要が出てくる。友好的な買収先となる“ホワイトナイト(白馬の騎士)”の最有力候補はトヨタ自動車だろう。トヨタも成長が期待できるインド市場に魅力を感じているからだ。トヨタは1970年代後半にスズキが排ガス規制への対応が遅れた際、当時業務提携していたダイハツを通じてスズキの窮地を救ったことがある。

 仮に国際仲裁裁判所がスズキに有利な裁定を下したとしても、スズキが独立を維持できるかどうかは、予断を許さない。
(文=編集部)

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