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9セルで読み解く 川上昌直のビジネスモデル・シンキング

話題の「オフィスで野菜」サービス、何が秀逸?スモールビジネスにありがちな思考のワナ

文=川上昌直/兵庫県立大学教授
話題の「オフィスで野菜」サービス、何が秀逸?スモールビジネスにありがちな思考のワナの画像1
話題の「オフィスで野菜」サービス、何が秀逸?スモールビジネスにありがちな思考のワナの画像2「Thinkstock」より

 先日、筆者はテレビ番組『お願い! ランキング』(テレビ朝日系/月~木曜深夜0時50分放送)内の企画「ビジネスジャッジ」に出演しました。同企画は、新たにビジネスを始めた起業家たちのビジネスモデルのプレゼンを聞き、現状の問題点や将来性などを元ライブドア社長・堀江貴文氏らとジャッジするもの。フレッシュな起業家のビジネスプランはどれもユニークで応援したくなるものばかりでしたが、半面、儲けるために不可欠な「顧客満足と利益をいかに同時創出すべきか」という視点が抜け落ちていたり、詰めが甘いと感じる部分もありました。

 そこで今回は、番組に出演した企業を取り上げ、筆者が提唱する9セル(ナインセル)というフレームワークに当てはめながら、同社のビジネスについて解説したいと思います。

 オフィスのブレイクタイムに、一口サイズの新鮮な野菜はいかが――? そんな価値提案で「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」というサービスを提供しているのが株式会社KOMPEITO代表取締役の川岸亮造氏です。仕事中は、スナック菓子やドーナツなど“茶色いもの”ばかり食べてしまうオフィスワーカーに野菜を提供したいと、川岸氏は考えました。大手コンサルティング会社で農業ビジネスに携わっていた川岸氏は、2014年に同社を立ち上げます。昨年1年間の年商は1000万円、従業員8名で奮闘しています。

 野菜の提供方法は実にシンプル。KOMPEITOの冷蔵庫をオフィス内に設置してもらい、そこに袋やパックに入った1つ100円の野菜を投入しておきます。社員の誰もがいつでも購入できるようにして、消費された分のみを補充して売り上げを確定する仕組みです。多くの人に馴染みのある、お菓子ボックスを設置する「オフィスグリコ」の野菜版といえます。

 さっそく、番組で川岸氏がプレゼンした内容を9セルに当てはめましょう。9セルとは、縦軸に「顧客価値」「利益」「プロセス」を、横軸にWho-What-How(「誰に?」「何に?」「どのように?」)を並べ、9つのセルに区切ったもの。それぞれのセルに答えれば、自社のビジネスのあり方がくっきりと見えます(9セルの詳細は本連載第1回記事を参照)。

9セルで読み解く「OFFICE DE YASAI」

「OFFICE~」は、お客様にどんな価値を提供できるのでしょうか。それを示したのが、9セル上段にある「顧客価値」の欄です。同サービスは、不規則になりがちな職場での食環境に「ヘルシー」を取り入れたい人(1)に、新鮮野菜(2)をオフィスに届けるビジネス。社内の冷蔵庫から野菜を取り出すので、コンビニでサラダや野菜スティックを買うよりも圧倒的に便利なところや、食べやすいサイズに切られているところが特徴的です(3)。オフィスのデリバリーといえば、コーヒーやお菓子などが定番の中、「野菜」に目をつけたのが画期的。ビジネスを稼働して半年足らずで100社以上と契約したそうですが、それはこれまでにはない「顧客価値」を提案できたからだと思います。

 ただしどんなに「顧客価値」が立派でも、いかに利益を生むのか考えなければ儲けにはつながりません。起業家の多くは「顧客価値」は熱心に追求しますが、「利益」については行き当たりばったりというケースは多いのです。

「利益」に関して考える時は、9セルの中段にある「利益」を使います。「OFFICE~」は、導入を進める企業を中心に(4)、月額会費を継続的にいただくことで利益に結びつけています(5)。冷蔵庫を設置する初期投資はかかりますが、その費用は月額会費をもらうことですぐに回収できます。

 下段は、このビジネスを実現させるために必要な「プロセス」です。川岸氏は自身がコンサルタントとして農業ビジネスに携わったときに野菜の生産者とネットワークができました(7)(9)。それを強みに、野菜の生産段階から追跡できるトレーサビリティなどを導入して野菜の信頼性をアピールしました(8)。

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「OFFICE~」から読み解くビジネスモデル・シンキング

 川岸氏はコンサル出身者ですから、9セルで改めて見てもビジネスの基本要素はしっかりと押さえていると感じました。特に同ビジネスは、「野菜をデリバリーする」価値提案と「定額課金(サブスクリプション)」を組み合わせた点が秀逸です。野菜というオーソドックスな製品を、従来のような単品売り切りではない方法で提案しているからです。この考えは、イノベーションを起こす上で非常に挑戦的で、筆者も推奨しています(詳細は自著『課金ポイントを変える 利益モデルの方程式』<かんき出版>参照)。

 付け加えるならば、「OFFICE~」の「顧客価値」をもう少し深掘りすれば、将来的に新たなビジネスチャンスが広がる可能性があります。川岸氏は「オフィスに野菜を届ける」という顧客価値を提案していますが、「そもそも顧客が野菜を食べたいのはなぜか?」を考えると、突き詰めれば健康になりたいから、あるいは健康を維持したいからといえます。

 この点は、当たり前のようにも思えますが、実はスモールビジネスがハマりやすい思考のワナです。プロダクトに集中しすぎることで、それを欲する顧客がどのような「片づけるべき用事」を持っているのかについて軽視する傾向にあるからです。

「片づけるべき用事」を考えよう

「片づけるべき用事」とは、「ニーズ」ではありません。ニーズは欲しいものがある程度はっきりとした状態ですが、顧客はそれがわかっていないことのほうが多いのです。顧客はある問題(=用事)を抱えていて、それを解決するための手段の一つとして何かしらの商品やサービスが欲しいと思っているだけなのです。

 これを「OFFICE~」に当てはめれば、顧客は「健康になりたい」という「片づけるべき用事」を抱えていますが、だからといって「野菜が必要だ」という発想に直結していません。そこで、「健康」にスポットが当たる場所、例えばフィットネスジムやヨガ教室などに冷蔵庫を設置してみます。ジムやヨガ教室に通う客は、「手軽に新鮮な野菜を食べること」を提案されて初めて、それも片づけるべき用事の一つだと認識するのです。

 そして、事業が軌道に乗って以降は、野菜という製品から派生した「経験」に拡張できないか?といった話まで広げることができます。すなわち、ヘルスケアを行う企業とタイアップして個々の体調の変化などを測定してコントロールするところまでフォローできれば、「健康志向の観点から、改めて野菜を見直す」というなにがしかの新ビジネスに結びついていく可能性は高いです。

「顧客は、野菜が欲しい」から一歩踏み込んで、「顧客は、なぜ野菜を必要としているのか?」に目を向ければ、さらに新たな課金ポイントも見えてくるはずです。客との接点を増やすことは、プロセス的に多くの手数を必要とするため煩雑になる側面はありますが、客に喜ばれ利益を生む視野を広げてくれるのです。

 起業したばかりの頃は、ブランド価値も低く資金も乏しいため、今ある商品やサービスを売ることで精一杯かと思いますが、事業が軌道に乗って以降は、いかに課金ポイントを増やせるか、顧客価値提案のオリジナリティを高めるかが勝負になります。そのためにも、製品を必要とするであろう顧客の「片づけるべき用事」を再考してほしいと思います。
(文=川上昌直/兵庫県立大学教授)

川上昌直/兵庫県立大学教授

川上昌直/兵庫県立大学教授

「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。
初の単独著書『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)は、経営コンサルティングの規範的研究であるとして第41回日本公認会計士協会・学術賞(MCS賞)を受賞。
ビジネスの全体像を俯瞰する「ナインセルメソッド」は、さまざまな企業で新規事業立案に用いられ、自身もアドバイザーとして関与している。
また、メディアを通じてビジネスの面白さを発信している。
そのほかの著書に『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』(かんき出版)、『ビジネスモデル思考法』(ダイヤモンド社)、『そのビジネスから「儲け」を生み出す9つの質問』(日経BP社)など
川上昌直プロフィールページ

Twitter:@wtp_profit

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