ビジネスジャーナル > エンタメニュース > NHK、やらせ認めず演出と強弁
NEW
碓井広義「ひとことでは言えない」

NHK捏造問題、頑なに「やらせ」を認めず「過剰な演出」強弁の理由 信頼失墜の公共放送

文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授
NHK捏造問題、頑なに「やらせ」を認めず「過剰な演出」強弁の理由 信頼失墜の公共放送の画像1NHK放送センター本部(「Wikipedia」より/Rs1421)

幕引きのための調査報告書

 昨年5月に放送されたテレビ番組『クロ-ズアップ現代 追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~』内で多重債務者に出家の斡旋を行っているブローカーとして登場した男性が、「自分はブローカーではなく、NHK記者の指示で“役柄”を演じた」と告発していた問題について、NHKは4月28日、調査報告書を公表した。

 結論としては、「事実の捏造につながる、いわゆる『やらせ』はなかったものの、裏付けがないままこの男性をブローカーと断定的に伝えたことは適切ではなかった」などとしている。NHKは番組を担当した記者の停職3カ月をはじめ、その上司や役員などの処分を決定。組織としての幕引きへと向かった格好だ。

番組内容と制作過程の乖離

 番組では、出家詐欺の当事者とされるブローカー・A氏との接触に成功し、彼の事務所でインタビューを行っていた。取材当日は偶然にも多重債務者・B氏がやって来て、出家詐欺を相談する様子を撮影することに成功。しかも、その映像は隣のビルからの隠し撮りという準備の良さだ。さらに事務所から出てきたB氏にも話を聞いており、本来であればスクープであった。

 しかし実際は、B氏と記者が旧知の間柄で、A氏はB氏の知り合いだった。事務所もまたB氏が撮影用に調達したものでありニセの事務所だった。A氏は調査報告書が出た後も、自身がブローカーであるとは認めていない。

 報告書は、基本的に記者の証言や主張を受け入れるかたちでまとめられている。記者がA氏をブローカーだと思い込んでいたこと、役柄や演技の指示はしていないという主張が認められ、取材・撮影の手法に問題はあったが、「事実の捏造につながる、いわゆるやらせはなかった」と判断しているのだ。

 しかし、放送された内容と報告書にある制作過程を客観的に比べてみた時、「やらせはなかった」という結論には納得できないものがある。

 なぜなら、やらせには捏造だけではなく、いくつかのヴァリエーションがあるからだ。実際よりも事実をオーバーに伝える「誇張」、事実を捻じ曲げる「歪曲」、あるものをなかったことにする「削除」、逆にないものをあるかのようにつくり上げる「捏造」が、いずれもやらせに該当する。だが、報告書は捏造だけをやらせと認識しており、その狭い定義に該当しないということで、「やらせはなかった」と言い張っているのだ。

 上記に照らせば、この番組では取材側の都合に合わせた、いくつかのやらせが行われていた。それらを報告書は、やらせではなく「過剰な演出」と呼んでいる。いわば一種の「言い換え」である。

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』(倉本聰との共著)など、編著に『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』がある。

NHK捏造問題、頑なに「やらせ」を認めず「過剰な演出」強弁の理由 信頼失墜の公共放送のページです。ビジネスジャーナルは、エンタメ、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!