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“うさんくさい”株式指標は株を買わせるための道具?証券業界の都合で頻繁に変更の謎

文=寺尾淳/ジャーナリスト
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バブルがバブルを再生産した、Qレシオ

 Qレシオは、現在も使われているPBR(株価純資産倍率)の変種だ。PBRは、株価を一株当たり純資産で割って算出するが、Qレシオは株価を一株当たりの実質純資産(バランスシート上の純資産+含み資産)で割って算出する。

 当時の日本の企業会計制度は時価会計ではなかったので、株も不動産も、取得時の簿価で算出される金額と、現状の推定価格に差が生まれ、それを含み資産と呼んだ。当時は不動産バブルで地価が高騰し、株価も史上最高値まで上昇していたので、企業の含み資産は膨脹した。証券業界が、それを取り込んで指標化したのがQレシオだ。不動産を多く所有していたり、歴史のある企業などはQレシオ1倍割れが続出し、株価は割安とされた。

 会計帳簿の外側にある含み資産は幻のような存在で、まさにバブル(泡)である。当時、メディアは「株価は、まだまだ上昇の余地がある」「Qレシオ1倍割れの銘柄を狙え」などとはやし立て、バブルによってバブルが再生産されていった。しかし、そんなQレシオも不動産バブルの崩壊で役に立たなくなり、時価会計制度の導入でとどめを刺され、PBRに取って代わられることになる。

ITベンチャーバブルの申し子、PSR

 00年前後になると、インターネットの普及に伴い、アメリカより少し遅れて日本でもITバブルが到来した。ITベンチャーが中心となった「第二のバブル」である。

 この年は、IT企業を中心に新規上場が200件以上もあり、ベンチャーブームで起業家が脚光を浴びていた。当時、注目を浴びた指標がPSRである。

 PERは利益に対する株価の比率だが、PSRは売上高に対する株価の比率だ。株価を一株当たりの年間売上高で割るか、株価×発行済み株式数の時価総額を年間売上高で割って算出される。利益率が低くても、売上高が兆単位の総合商社、石油元売り、鉄鋼や紙パルプのような素材産業などは超優良銘柄になるはずだが、PSRの算出対象は主にITベンチャーだった。ほかの指標を使えば、投資家から問題外とされかねないような新興ベンチャーを、優良企業に見せかけるための苦肉の策でもあったのだ。

 損益計算書を見た時、売上高がどんなに高くても赤字であれば、投資家はそっぽを向いてしまう。ROEもPERもマイナスで、たいした資産もない新興企業は、PBRも小さいのが当たり前だ。

 そこで編み出されたのが、PSRだ。根底には、「新興企業は、立ち上げ時の投資がかさむために赤字になりやすいが、一定の売り上げがあれば、いずれ利益が追いついてくる」という考え方がある。

 背景には、東京証券取引所のマザーズ市場のように、赤字でも上場できる市場が開設されたこと、さらに、マザーズ上場後に株価を急上昇させたITベンチャーの出現があったことが挙げられる。まさに、ITバブルだったというわけだ。

「赤字でPERがマイナスだからといって、投資先から外していいのか」という投資家サイドの思惑に証券業界が乗ったかたちで、上場前後の企業を判断する指標にPSRを採用したのである。

 たとえ赤字でも売上高で評価されるPSRも、ITバブルが崩壊して新規上場数が減るとともに忘れ去られていたが、最近の新規上場数の回復に伴い、見直される動きが出ている。

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