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碓井広義「ひとことでは言えない」

“キムタク”封印した『アイムホーム』は、なぜ私たちの心を打つのか?普通の人生への問い

文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授
“キムタク”封印した『アイムホーム』は、なぜ私たちの心を打つのか?普通の人生への問いの画像1「Thinkstock」より

 今期(4~6月期)の連続ドラマで注目された一つが、木村拓哉(42)と堺雅人(41)というビッグネーム2人の登板である。

 5回目までの平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は、木村の『アイムホーム』(テレビ朝日系)が14.39%、堺の『Dr.倫太郎』(日本テレビ系)が13.13%と拮抗しているものの、どちらも大ヒットとまではいっていない。

 しかし、木村も堺もこれまでとはひと味違った役柄に挑戦し、確実に演技の幅を広げている。それぞれの模索が見所ともなっている。

あえて“キムタク”を封印した木村拓哉

『アイムホーム』は、いわゆる“キムタク・ドラマ”ではない。脚本も演出も脇役も、ひたすら木村をカッコよく見せることだけに奉仕するのがキムタク・ドラマなら、今回は違うといえる。ここにいるのは“キムタク”ではなく、一人の俳優としての木村だからだ。

 主人公は、事故で過去5年の記憶を失った証券マン、家路久(木村)。なぜか妻(上戸彩)や息子の顔が、白い仮面を被ったように見えてしまう。それが後遺症のせいだとわかっても、彼らへの愛情に確信が持てないことに変わりない。その一方で、元妻(水野美紀)と娘に強い未練をもつ自分に戸惑っている。

 原作は石坂啓の人気漫画で、仮面が邪魔して家族の感情が読み取れないというアイデアが秀逸だ。その不気味さと怖さはドラマで倍化しており、見る側を家路に感情移入させる装置にもなっている。

 自分は元々家庭や職場でどんな人間だったのか。なぜ結婚し、離婚し、新たな家族を持ったのか。すごく知りたい。でも、知るのが怖い。そんな不安定な立場と複雑な心境に陥ったフツーの男を、木村が“キムタク”を封印して誠実に演じているのが、このドラマなのだ。

 もちろん主演は木村だが、いつものような悪目立ちはない。何より、夫であり父でもあるという実年齢相応の役柄に挑戦し、きちんと造形していることを評価したい。

 事故に遭った時、家路は10本の鍵を持っていた。毎回、1本ずつの鍵の“正体”がわかるのと同時に、自分の過去も明らかになっていく。この仕掛けも上手い。

 脚本は『医龍』(フジテレビ系)や『ハゲタカ』(NHK)で知られる林宏司。大人が見てもいいドラマだ。

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』(倉本聰との共著)など、編著に『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』がある。

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