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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

低所得者層の増大と格差拡大は、今後さらに加速する 生活必需品の物価上昇が続く背景

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト
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このように、生活必需品の価格が上昇してきた背景としては、(1)新興国での需要増加などにより輸入品の価格が上昇している、(2)先進国の量的緩和や新興国の外貨準備を起点とした投機マネーの流入が進んでいる、(3)異常気象により農作物の収穫量が減少している――ことなどがある。

 特に、米国以外の金融政策が緩和傾向で推移する一方、新興国や途上国が今後とも生活水準を高めていくと見込まれる。こうなれば、世界の食料需給は中長期的には人口の増加や所得水準の向上等に伴うアジアなど新興国・途上国を中心とした需要の拡大に加え、これら諸国の都市化による農地減少も要因となり、今後とも需要が供給を上回る状態が継続する可能性が高い。つまり、食料品の価格は持続的に上昇基調をたどると見ておいたほうがいい。

物価の二極化が、生活格差の拡大をもたらす

 ここで重要なのは、生活必需品と嗜好品での物価の二極化が、生活格差の拡大をもたらすことである。生活必需品といえば、低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる傾向があるためだ。従って、全体の物価が上がる中で生活必需品の価格上昇率が上回ると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大する。

 さらに深刻なのは、国内の低所得者層が拡大傾向を示していることがある。こうした所得構造の変化は、国内経済がグローバル化への対応に遅れたことで富が海外へ移転し、日本国民の購買力が損なわれていることを表しているといえよう。そして、グローバル化の恩恵を享受できず競争圧力にさらされた低所得者層の拡大を生み出し、結果として労働者の所得格差拡大がもたらされてきたといえる。

 一方、物価の二極化は、地域格差も広げる可能性がある。公共交通網の目が粗い地方では自動車で移動することが多く、家計に占めるガソリン代の比率も都市部に比べて高い。また、冬場の気温が低い地域では、暖房のために多くの燃料を使う必要があり、こうした地域にとって灯油代の高騰は大打撃だ。電気料金やガス料金も燃料市況に連動するため、原油やガスが上がれば光熱費も増える。

 こうした状況に対し、日本銀行は中長期的な物価安定について「消費者物価が安定して前年より2%程度プラスになる」と定義している。しかし、コストプッシュで消費者物価の前年比が2%プラスに到達しても、それは安定した上昇とはいえず「良い物価上昇」の好循環は描けない。

 従って、本当の意味でのデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となる。そしてそうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる「良い物価上昇」がもたらされることが不可欠といえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)

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