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舘内端「クルマの危機と未来」

電気自動車と燃料電池車は利便性が劣る、との批判は“人間として”軽率である

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表
電気自動車と燃料電池車は利便性が劣る、との批判は“人間として”軽率であるの画像1トヨタ自動車「ミライ」

航続距離は電気自動車より長いか?

 トヨタ自動車の燃料電池車MIRAI(ミライ)は、燃料となる水素を700気圧まで圧縮して充填するが、圧縮前に冷却が必要となる。なぜなら、冷却しないで700気圧まで圧縮すると、空気の場合は摂氏3752度まで熱くなってしまうからだ。

 仮に350気圧で充填すれば水素の冷却は楽になるが、充填できる燃料が減り航続距離は半分になってしまう。ミライは700気圧で650kmの航続距離だから、350気圧にすればおよそ325kmとなる。

 ちなみに、米テスラモーターズの電気自動車であるモデルSの航続距離は502kmである。また、第二世代のリチウムイオン電池を搭載する電気自動車が今年の後半から来年初頭にかけて登場し始めるが、その航続距離は300~350kmといわれる。

 燃料電池車を製造する自動車メーカーは、電気自動車に比べて圧倒的に優位と主張し、「だから未来は電気自動車ではなく燃料電池車だ」と訴求してきたが、350気圧での充填では航続距離の面で優位ではなくなる。

 例えば、自転車のタイヤに空気を入れると、空気入れを押すにはだんだん強い力が必要になり、しかも空気入れが熱くなる。この時の圧力は、ロードレース用で7気圧程度、家庭用の自転車ではたかだか2気圧程度だ。燃料電池車の場合は、それの100~350倍の圧力で水素を入れることになる。

 水素の製造、冷却、圧縮と、燃料電池車のタンクに水素が届くまでには、さまざまな工程が必要だ。そのたびに、かなりのエネルギー(電力)を使う。

航続距離か、二酸化炭素か

 では、もっと水素タンクを大きくして、充填圧力を下げればどうだろう。ミライのボディサイズでは、これ以上大きなタンクを積むことはできない。

 現在の技術で燃料電池車が、内燃機関自動車や先行する電気自動車に性能や利便性の面で追いつき追い越すことはきわめて難しい。さらにいえば、利便性において内燃機関自動車を追い越せる次世代車は、現在のところ存在しない。

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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