【「月刊サイゾー」立ち読みサイト「サイゾーpremium」より】
──2012年、日本を騒がせた凶悪犯罪というと、多数の被害者を出した尼崎事件と六本木クラブ襲撃事件ではないだろうか。この2つの事件の根底にあるもの──それはそれぞれ、家族問題に対する民事不介入、半グレ。それらの問題を探るべく、今読み返すべき”アノ”事件本の裏側に迫った。

編集者からのたっての依頼だから引き受けたものの、本当なら「猟奇殺人」を扱った本を読むのは、なるべく避けたいと思ってきた。今回、『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』【1】を読んだことで、しばらくは類書を手に取ることはないだろう。
しかし苦手ではあっても、毛嫌いしているわけではない。むしろこの手の本が、丹念な取材に基づくノンフィクションとして存在することには、社会的に大きな意義があると思っている。
死体を切断し、切り刻み、肉片を鍋で煮込んでミキサーで液状化し、公衆便所に流す。粉々にした骨や歯を味噌といっしょに団子状に固め、夜更けのフェリーから投下する──。
主犯の松永太は最初に監禁した男性を虐待死させた際、内縁の妻である緒方純子と男性の実の娘にこのように指示し、事件の痕跡を巧みに消してしまった。緒方の家族らの死体も、同様の手口で遺棄している。
酸鼻かつ確信的な犯罪という点でいえば、埼玉愛犬家連続殺人事件【編註:1993~95年の間に起きた、ペットショップ「アフリカケンネル」経営者たちによる計4人の失踪殺害事件。11年に園子温監督によって、この事件をモチーフとした映画『冷たい熱帯魚』が公開された】のほかに、これと比肩する例を知らない。
埼玉の事件を題材とした『共犯者』【2】は、『愛犬家連続殺人』【3】、『悪魔を憐れむ歌』【4】とタイトルを変えて繰り返し刊行されつつも、いずれもが絶版になっている。「怖いもの見たさ」を刺激する話題性と、あまりの非人間性に対する批判の間で揺れる出版社の困惑が見て取れるようだ。