ビジネスジャーナル > 企業ニュース > アップル、凋落の予兆か  > 2ページ目
NEW
カール教授の超入門ビジネス講座

ジョブズも20年間「認めたがらなかった」必勝の戦略 アップル、凋落の予兆か

文=平野敦士カール/ビジネス・ブレークスルー大学教授、ネットストラテジー代表取締役社長

 しかし現実に起きたことは逆だった。当時iPod類似の音楽再生機はソニーを含めて4社ほどあったとされていたが、そもそもアップルのPCはシェアが10%以下だったため、利用できる人が限られ、熱狂的なアップルファン以外には訴求できなかった。

 当時アップル社内では、Windws対応のPCでも利用できるようにすべきとの声が上がったが、ジョブズ氏は当初頑なにこれを拒否した。思い通りの素晴らしい製品をつくるためには、すべて垂直統合的に自社で一貫して手掛けることが不可欠だと考えていたからだ。確かに他社製品に依存することは理想通りの製品開発の足かせになることが多々あるため、メーカー発想の視点としては当然の主張だった。

 しかし現実には、アップル2がヒットしたひとつの要因は、米パーソナルソフトウェアが作成した世界初の表計算ソフトVisiCalcによって、それまでホビー商品だったPCがビジネスユースとして認知されたことが大きかった。つまり、アップルのPCのヒットは、実際には多くの他社開発ソフトのおかげでもあったのだが、ジョブズ氏はなかなかそれを認めようとはしなかった。

 しかし、iTunesのWindws対応について、最終的にジョブズ氏は容認することになった。その際、「勝手にしろ。責任は取れ」といって同氏は会議室を出て行ってしまったというエピソードもある。

 こうしてWindwsでもiTunesが使えるように他社が制作したソフトをリリース
したが、操作性が悪く、評判は芳しくなかった。するとジョブズ氏は自ら号令をかけて自社で改良をしたソフトを出し、ここからiPod は爆発的なヒットになっていった。iPod自体が素晴らしい製品であることには疑いの余地はないが、ビジネスとしての成功は、iTunesという音楽ダウンロードプラットフォームをオープン化したことで初めてもたらされたのだ。

 その時、ジョブス氏が20年間もかかってようやく認めたのがプラットフォーム戦略【註1】だといえる。本連載前回記事で触れたように、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏がいち早くプラットフォームの力を見抜いていたのとは対照的だ。ゲイツ氏がアップルのOSでも自社のソフトを動かせるようにしてシェアを拡大していったのは、周知のとおりだ。

日本メーカー、惨状の背景

 しかし、ジョブズ氏亡き後のアップルは、今でも自前主義・秘密主義が強い会社だ。iPhone アプリもアップストア以外ではダウンロードできない。Apple Watchも基本的にiPhoneと連携して使うスタイルになっている。シェアの拡大よりも高級品化・高収益化を目指す経営戦略を優先しているといえよう。実際、スマートフォン(スマホ)向けOSのシェアも、米グーグルのアンドロイドに奪われている。

平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

米国イリノイ州生まれ。麻布中学・高校卒業、東京大学経済学部卒業。


株式会社ネットストラテジー
代表取締役社長、社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。日本興業銀行、NTTドコモを経て、2007年にハーバードビジネススクール准教授とコンサルティング&研修会社の株式会社ネットストラテジーを創業し社長に就任。ハーバードビジネススクール招待講師、早稲田MBA非常勤講師、BBT大学教授、楽天オークション取締役、タワーレコード取締役、ドコモ・ドットコム取締役を歴任。米国・フランス・中国・韓国・シンガポール他海外での講演多数。


著書に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)『図解 カール教授と学ぶ成功企業31社のビジネスモデル超入門!』(ディスカヴァー21)『新・プラットフォーム思考』・『シリーズ 経営戦略・ビジネスモデル・マーケティング・金融・ファイナンス』(朝日新聞出版)監修にシリーズ18万部を突破した『大学4年間の経営学見るだけノート』『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社)など30冊以上。海外でも翻訳出版されている。

ジョブズも20年間「認めたがらなかった」必勝の戦略 アップル、凋落の予兆かのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!