こうしたタイプのローンは、「一定以上の規模の企業に5年、10年勤めている正社員」が審査に通る目安のようになっている普通の住宅ローンにとっては、まったく脅威ではない。金利が異なる上に、利用者層もほとんど重ならないからだ。現在のゆうちょ銀行の住宅ローンはいわば、他の金融機関が取りこぼしているようなニッチな部分をすくい取っている「すき間産業」といえる。

 このように「すき間産業」のイメージが定着しているので、金融庁から自前で個人貸付ができる認可を受け、他の金融機関と同じ条件の住宅ローン商品を揃えられたとしても、2万4000の郵便局網をフル稼働させてどんどん貸し込んでシェアを急速に拡大するとは考えにくい。100円ショップに1000円の商品を置いても売るのが難しいように、独自のビジネスモデルで同業他社と棲み分けができていると、その棲み分けの壁を壊すのが難しいからだ。

 例えば、ゆうちょ銀行では現在、金利が安い「フラット35」の住宅ローンも取り扱っているが、スルガ銀行が独立行政法人住宅金融支援機構と提携していて他の金融機関と審査条件がまったく同じなので、審査に落ちた人から「郵便局なのに、なぜダメなのか?」とクレームが寄せられることがあるという。今後、自前で設計した住宅ローンを始めても、これまでの「弱者の味方」イメージが無用の誤解や偏見や批判を生んでしまう恐れがある。

 こんな調子では、よほど魅力のあるローン商品でも設計・開発しない限り、ゆうちょ銀行の住宅ローンは他の金融機関にとって、とても脅威にはならないだろう。

企業貸付で「メーンバンク」になれない理由

 ゆうちょ銀行は一般の銀行と同じような企業貸付も新規事業として申請しているが、まだ認められていない。その意味では、ゆうちょ銀行は、まだ完全な「銀行」ではない。だが、もし認められたとしても、他の金融機関にとって脅威になるだろうか。

 メガバンクや地銀にとって最大のミッションは、「必要な資金を供給して取引先の事業を大きく発展させる」ことである。取引先の社業を成長させるために、相談相手になって財務だけでなく経営全般にわたって幹部にアドバイスし、信頼関係を築いて時には厳しいことも言う。知恵を絞り、さまざまな金融手法を駆使して事業を支援する。それができるようになるには、「メーンバンク」として取引先金融機関の中でイニシアティブをとれるようになることが条件だ。

 かつて郵貯資金は旧大蔵省(現財務省)資金運用部への全額預託を義務づけられ、2015年3月期決算で運用資産の51.8%を国債で運用し、貸出金の比率は1.3%しかないゆうちょ銀行に、そこまでできる人材はどれぐらいいるだろうか。現役の銀行員をヘッドハンティングすればいいといっても、実績のある支店長クラスを誘うだけでは不十分で、その人の手足となって働くような有能な若い人材も多く揃えなければ成功は望めない。そこまでやっても、企業貸付の実績がほとんどないゆうちょ銀行が取引先の信頼を得てメーンバンクになれるかというと、心もとない。

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