キリンビール「フリー」
――まず、マーケティングの定義について教えてください。
有馬賢治氏(以下、有馬) マーケティングという言葉は、ここ10年程度で世間に定着したと思われますが、実は日本語ではなかなか表現しづらい言葉で、その解釈は人によって違います。定義的にも多様な解釈があり、一言で「何をもってマーケティングなのか?」を説明するのは難しいです。
例えば、アンケートで市場調査を行うことも、テレビCMを放送することも、新商品を売り出すことも、ペットボトルにおまけをつけることや、顧客が手に取りやすいようにレジ近くにお菓子を配置することも、すべてがマーケティングの一部なのです。
――つまり、世の中はマーケティングであふれているということですね。この範囲の広さは、マーケティングを知らない人を余計に混乱させます。
有馬 そうですね。こういったマーケティングの多彩な活動をあえて一言で表すのであれば、「売れる仕組みをつくること」だったり、「顧客に買いたい気持ちになってもらう工夫をすること」と表現できるでしょう。マーケティング用語に「4PS」という言葉があります。詳しくは別の機会に説明しますが、Product(=製品)、Price(=価格)、Place(=流通)、Promotion(=販売促進)を指すもので、これらを組み合わせて、顧客に満足してもらうことがマーケティングの基本だと考えていいでしょう。相手(=顧客)のことを思いやる気持ちをかたちにできれば、誰だってマーケティングは始められるということです。
セールスとマーケティングは違う
――では、第一歩として、まず何から学べばよいのでしょうか?
有馬 マーケティングの細かいテクニックは、次回以降にお話しするとして、今回はマーケティングを学ぶ上での注意点を説明しておきます。
まずひとつ目は、「セールス(セリングともいう)」と「マーケティング」は違うということです。セールスとは「つくったものを売ること」で、売り手の都合で顧客に商品を押し付けてしまおうという発想です。「キャッチセールス」などがいい例ですね。アメリカでは「高圧的に売る(英語でハードセル:hard-sell)」というニュアンスが含まれる言葉なのです。一方、マーケティングは、「売れるものをつくり」、そして「売れる仕組みをつくる」ことを意識しているのです。