CDやテープなどの音楽パッケージの年間販売額は、00年代に入って縮小の一途をたどっています。それでも、05年には4000億円を超えていましたが、14年は2500億円にまで縮小してしまいました。楽曲のデジタル販売も携帯電話からスマホに移行するにつれて縮小し始め、ピーク時には900億円を超えていた販売額が400億円台に減っています。

それとは対照的に、コンサートプロモーターズ協会の統計では、コンサートの売り上げは05年に1050 億円程度だったのが、14年にはおよそ2750億円と2.6倍の規模に成長し、CD販売額を逆転しています。
何が、そうさせたのでしょうか。アップルが、iPodとiTunesで音楽を楽しむ環境を変えてしまったからです。買ったCDも借りたCDもコピーされ、膨大な曲がパソコンに保存され、またそれがiPodやスマホにコピーされ、いつでも、どこでも、好きな音楽を聴けるようになりました。
もはや、聴ききれないほどの音楽を持ち、しかも持ち運べるようになったのです。音楽を聴くことが、まるで呼吸することのように自然となり、特別な価値を持たなくなりました。
「聴く音楽」がコモディティ化したことで、好きなアーティスト、また同じ嗜好を持ったファンと場や感動を共有するコンサートなど「体験する音楽」に、人々のニーズが移ってきたのでしょう。
「聴く音楽」のコモディティ化とカタログ化
音楽のデジタル化は、新しい曲や気に入った曲を探すことを容易にし、音楽のカタログ化の流れも生み出しました。そして、それ以上の特別な価値を求めるユーザーは、「聴く音楽」ではなく「体験する音楽」としてコンサートに足を運ぶのです。
そういった音楽ライフの変化を考えると、動画共有サイト「YouTube」に代表される無料の音楽ストリーミングや、定額音楽配信サービスへのニーズは高く、あとは曲のレパートリーや使い勝手、値ごろ感のいいサービスが選ばれるようになってくるのでしょう。
今のところ、日本の定額音楽配信サービスの料金は、各社500円や1000円といったところですが、スポティファイも有料会員はようやく2000万人に達したといわれています。
スポティファイは、14年の売上高が前年比で45%増の10億800万ユーロ(約1500億円)と元気印ですが、赤字が拡大し、1億6200万ユーロ(約225億円)の純損失を計上しています。
音楽配信サービスは、利益が出にくいビジネスなのかもしれません。そういう意味では、もしApple Musicが日本でも月額9.99ドル(約1200円)で展開するとなると、よほど差別化や付加価値が伴わないと、かなり厳しいのではないでしょうか。
アップルが音楽ダウンロードで2年連続売上高を落としたのも、無料、あるいは有料でも価格の安いスポティファイなどの定額音楽配信サービスに「音楽を聴く時間」を奪われてしまったからです。アメリカのダウンロードされた楽曲数とスポティファイのアクティブユーザー数の推移を見れば、競合していることがわかります。ユーザーは無料か、より価格の安いサービスに流れる可能性が高いのです。
(文=大西宏/ビジネスラボ代表取締役)