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前述したIHIのケースでは、株価は決算修正発表までの2カ月強で公表直前からほぼ半値に下落した。このため、株主192名がIHIを相手に損害賠償を求めて集団訴訟を起こし、昨年11月、東京地裁が同社側に4800万円の支払いを命じる判決を出している。金額そのものは同社に何の痛痒も与えないレベルだが、訴訟は対応するだけで疲弊する。訴訟を通じ、本来社外に出ないはずの情報が出てしまうリスクもある。東芝も、株主から今後訴訟を起こされる可能性は否定できない。
株主にしてみれば、リークさえなければ本件が明るみに出ることはなかったという思いにもなろう。だが、権力闘争のおかげで皮肉にも東芝の会計処理の精度はより高まるのだから、リークを責めれば大義名文が立たない。株主が向けるべき怒りの矛先は、せっかく専門家から絶賛される危機管理体制を整えたのに、権力闘争がその体制の機能を阻害したという点である。企業体質が改善されない限り、どんなに立派な制度をつくっても機能しないことを、今回の騒動は証明したといえよう。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)