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宮永博史「世界一わかりやすいビジネスの教科書」

地方の小さなバス会社、どう赤字路線を奇跡的再建?低コストの“当たり前”改革を実践

文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT(技術経営専攻)教授
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 1つ目の方針は、バス停ごと、そしてバス停間の最小区間ごとの乗客数を正確に把握しようとした点である。問題の所在を明確にするには、データ収集の精度を上げていくことだ。顕微鏡で観察する場合、倍率の低いレンズでぼやっとした観察をしても、観察対象もぼやっとしかわからない。しかし、倍率を上げて精度を高めると、観察対象がクリアになってくる。データ収集も、まったく同じだ。路線全体を見ても、問題の所在はぼんやりとしかわからない。バス停ごと、個々のバス停間の乗降客に関するデータまで収集することで、問題の所在が明確になってくるのである。

 2つ目は、バス停ごとに、ダイヤと実際の運行時間との差を秒単位で正確に情報収集しようとした点だ。ここでも、時間軸という観点からデータ収集の精度を上げることを考えている。これこそ、業界の常識に挑戦し、利用者の立場に立った情報収集といえよう。利用者からすれば、実際に自分が利用するバス停で、バスの到着ができる限り運行ダイヤ通りであってほしいと思うのは当然だからだ。

 3つ目は、こうした情報収集を短期間に限定するのではなく、継続的に実施することとした点である。すなわち、サンプリング調査ではなく、全数調査を実施し、しかも継続していくこととしたのである。

いかにデータを収集するか

 この基本方針を実現するため、イーグルバスが具体的に採用したデータ収集の手法は次の2点であった。

(1)バスの乗降口に乗降センサを設置して、乗客数を正確に測定する
(2)バスにGPSセンサを設置して、バスの位置と時間を正確に測定する

 こう書かれると、一見なんでもない方法のようにみえるが、実はこの解決案はなかなか出てこない。たいてい出てくるアイデアは、バスの運転手に数えさせるなど、現場に負担を強いる方法だ。データを収集する期間も一週間程度に限定し、一部のバスだけでデータを収集するなど、いかにも中途半端な案が出てくる。

 SuicaなどICカードを使うアイデアも出るが、これではSuicaを利用しない乗客のデータが抜けてしまう。また、正確な位置情報を収集できない。そもそも、Suicaのデータを他社が保有していれば、それを入手するのは難しい。イーグルバスは、自分自身でデータを収集し、それも継続的かつ自動的に収集することとしたのである。

 そのために、その時点で利用可能な技術を上手に活用している。データ収集は、何も最先端の技術である必要はない。身近に普及している技術を利用するほうがコストもかからない。乗降センサやGPSセンサを使うという情報収集方法は、現場に負担を強いることなく、コストをそれほどかけずに、精度の高い情報を正確に長期間にわたって無理なく収集できる優れた方法といえる。

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