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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

財政破綻で起こる恐ろしい事態 物価高騰、失業者増、給与減…平時の緊縮財政はプラス大

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト

 こうしたことから、緊縮財政というのは、財政危機が表面化してから実施すべきものではなく、実は景気が良い時にこそより大きな効果を発揮することがわかる。

 その好事例が近年の米国である。米国は2008年のリーマンショックからいち早く立ち直り、先進国の中でも経済が好調だが、13年3月から50億ドル規模の自動的な歳出削減プログラムに踏み切った。このように大規模な緊縮財政に踏み切ったにもかかわらず、米国では国民の不満の声はそれほど上がらなかった。これは、緊縮財政で国民が感じる痛み以上に、株や不動産など資産の価値が上がって生じるプラスのほうが大きく、マイナス分を帳消しにしたからである。

 財政危機に伴って、過去にはマネタイゼーションが行われたこともあった。それが1998年のロシア危機である。90年代に社会主義経済から市場主義経済に転換したロシアは、社会主義経済の下での生産性の低い企業に対する抜本的な改革を財政による補助金の投入で先送りし、慢性的な財政赤字と硬直的な財政運営に依存していた。それが、97年のアジア通貨危機により顕在化し、財政危機に陥った。ロシアでは中央銀行が国債を買い入れ、政府は国債を売って得た資金を債務の支払いに充てた。この結果、通貨ルーブルが大幅に下落してインフレ率も99年には85%以上へと上昇し、経済活動は大きく混乱した。

 一方、アジア通貨危機でIMFの支援を受けた韓国には、支援の条件として経常収支改善や財政収支黒字化、インフレ抑制、金融引き締め、外貨準備積み増し――などの厳しいハードルが課された。また、経営難に陥った金融機関の閉鎖などの金融改革と、市場開放のために財閥改革も行われた。経済が悪化する中でIMFの支援条件に沿った再建計画が進められたため、経済成長率はマイナスに落ち込み、韓国では朝鮮戦争以来最大の国難として「IMF危機」と呼ばれている。

 アルゼンチンでは2001年、通貨ペソのドルペッグ制が破綻したことによるデフォルトが起きた。周辺国が自国通貨を切り下げ、変動相場制にする中、固定相場制を維持したため輸出価格が高くなり、産業の競争力が失われて海外に資金が流出。取り付け騒ぎを防ぎ、資金の国外流出に歯止めをかけるため、政府はすべての銀行口座を凍結した。

 しかし、金融機関の破綻によって給料の払えない企業や倒産する企業が相次ぎ、失業率は00~02年には20%台に上昇したほか、自国通貨の価値が暴落したことで物価も高騰。政情不安になって商店略奪が横行し、暴動も発生したことで、大統領が辞任に追い込まれる事態に発展した。

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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