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江川紹子の「事件ウオッチ」第34回

原発事故で東電元会長ら強制起訴 だが本当に法廷で真相解明できるのか?

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 こうしたマインドセットは事故直後には激しい批判にさらされたため、改善されたかもしれないが、時間がたてば形状記憶合金のように元に戻りがちだろう。そういうことがないようチェックすることのほうが、さまざまな資源を投入して個人責任を追及するより「国民の安全」に役立つのではないか。

 また、同報告書は次のような提言も行っている。

「今なお続いているこの事故は、今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視、検証されるべきである」

 国会において、後継の調査委員会をつくるべしとの提言だ。政府が設置した調査・検証委員会でも、未だ解明できていない部分があるとして、報告書の中で「国は引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきである」と提言している。

 ところが、こうした機関はつくられていない。

 原発事故の現場では、地道な作業が進められている。つい先日も、「使用済み燃料プールに落下し、核燃料取り出しの傷害になっていた重さ20トンの大型装置の引き揚げに成功した」というニュースがあった。ただ、核燃料の取り出しは、当初の工程表から数年単位で遅れている。港湾内から、放射性物質を含んだ汚染水が雨量の増加によって海に流出したことも報じられたばかりだ。

 安倍首相がオリンピック招致の際に国際社会に向かって、「私が安全を保証します。状況はコントロールされています」「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」と宣言したが、それは今なお果たされていない。

 事故は今なお進行中であり、すべての問題が解明できたわけでもないと調査委員会が認めているのに、未だに後継調査委員会すらできていないというのはどういうわけか。強制起訴の刑事裁判が始まるには、1年以上はかかるだろう。マスメディアは、本来の真相解明に資する場の設置についての問題をしっかり伝えてほしい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

 

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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