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ノンフィクションライター 清泉亮インタビュー(1)

【日航機墜落30年】御巣鷹の村、日航の「下請け化」=経済的依存が深まる歪んだ関係

取材・文=編集部
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日航機墜落事故を描いた小説『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫・文春文庫)にも、「もらい事故」という強烈な台詞があります。

清泉 未来永劫、土地に縁のなかった人々を供養していくという「役」を負ってしまった。そんな複雑な想いも、村民の間には実際に存在します。「なんで俺たちのところに」「なんで俺たちが」という複雑な心境は当然でしょう。実は慰霊の園をつくる際にも、一部の村民からは「村から出征していった戦没者の慰霊碑はほったらかしで、村には縁もゆかりもない人々の慰霊地だけを整備するのか」と異論が出ました。それほど村というのは人間の精神的な紐帯が緊密なのです。村民=内の者が最優先される土地柄でそうした感情を押し殺して、縁のなかった人々の供養を優先させ30年間にわたって慰霊を続けて尾根を守ってきた。そうした現実を知れば、その意味はいっそう重いもののように感じます。

–しかし、村民の負う「役」はボランティアではない。例えば、年に500万円の収入をもたらすという現実も存在するというわけですね。

清泉 日航の寄付金を得ている財団法人には臨時職員もいます。全員が村の人々です。収入が極めて限られた過疎の村で、財団法人の運営と発注業務は経済規模として極めて大きく、なおかつ貴重なものとなっています。慰霊の園の管理人の所得もそうですし、園の管理や周辺道路を整備する地元企業にとっても、文字通り実入りに直結する「生活の糧」なのです。

 本来、対等であるべき村と企業の関係は、ともすれば日航が発注者で村は下請け業者であるとの心理的関係に陥ることもあり得る、というのが偽らざる実感です。そして30年という時間の中で、村の経済状況はさらに疲弊し、一度は倒産したとはいえ、いまだに「日本を代表するナショナルフラッグキャリア」であり続ける日航からの寄付金に頼らざるを得ず、だからこそ期待だけでなく依存さえ強まってしまう。そばで見ていますと、とても複雑な気持ちになります。

村にとって貴重な収入源という現実

–村民にとっての30年は結局のところ、「カネ目当て」の日々だったのでしょうか?

清泉 カネ目当てがすべてということは、もちろんないでしょうけれど、ああいった山間の地域ではとにかく収入を得ることが大変に難しい環境です。墜落事故当初の村長が「カネのことを一切言うな」と号令を出し、村の人々はその声には黙して従ったわけです。

 上野村にはその後、東京電力のダムもできたので、固定資産税などによって周辺自治体よりも多少は余裕があります。そうした関係から、平成の町村合併でも、あえて他村と合併する道を避けていたという面もあるのです。合併によって、逆にそうした小規模ゆえの潤った状況が食われてしまうことを懸念したのです。御巣鷹の尾根を挟み、上野村と隣接し、やはり東電のダムを抱える長野県南相木村もそうです。固定資産税も年を経るごとに目減りしていきますが、それでも目先の財源が合併によって薄まってしまうことは避けたいという心理は根強いでしょう。

–確かに、人間は霞を食べて生きていくことはできませんから、収入の確保は切実な問題です。

清泉 もちろん、カネがすべて、という行動は決して前面には出ませんが、産業も人口も極めて限られた地域では「とにかくもらえるものはもらいたい」「使えるものは使わなければやっていけない」「遠慮していては食べていけない」という感覚が根強いのは、むしろ自然な感情として、致し方のないことだろうと思います。

 経済的な要因も絡んだ複雑な事情を押し殺し、村民は「遺族のために」と、慰霊ルートを日々、整備しています。墜落現場を抱え、守り続け、日航と村の両者が時に思惑の異なる心の波を乗り越えて30年を迎えたところに大きな意味があるのだと思います。

–ありがとうございました。
(取材・文=編集部)

●清泉亮(せいせん・とおる)
1974年生まれ。人は時代のなかでどのように生き、どこへ向かうのか――。「ひとりの著名人ではなく、無名の人間たちこそが歴史を創る」をテーマに、「訊くのではなく聞こえる瞬間を待つ」姿勢で、市井に生きる人々と現場に密着し、時代と共に消えゆく記憶を書きとめた作品を発表している。前作に『吉原まんだら 色街の女帝が駆け抜けた戦後』(徳間書店)。

第2回:『日航と航空機墜落の村、陰で罵声浴びせ合う現実 剥き出しの村民たちの私利私欲』

第3回:『日航機墜落ドキュメンタリー番組のウソ シナリオに沿った撮影、感涙を誘うための編集』

第4回:『日航機墜落30年、想像を絶する地元民の苦悩 極寒の地で、520人の墓標を守る老夫』

『十字架を背負った尾根』 まだ誰も目にしたことのない山深き慰霊の地が育む、四季という鎮魂の音色。山を守る人間とともに見つめた「御巣鷹の尾根」30年目の鎮魂の景色 amazon_associate_logo.jpg
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