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熊谷充晃「歴史の大誤解」

ゼロ戦、「圧倒的強さ」ゆえに生じた悲劇

文=熊谷充晃/歴史探究家
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ゼロ戦、「圧倒的強さ」ゆえに生じた悲劇の画像1零式艦上戦闘機22型(「Wikipedia」より/Cobatfor)

 今も熱烈なファンが多い「零戦(ゼロ戦)」。正式名称は「零式(れいしき)艦上戦闘機」のため、正しい略は「れいせん」だが、本稿では「ゼロ戦」で統一する。ゼロ戦は、当時の日本を代表する軍用機で、三菱重工業によって開発されていた。

 当時の世界の戦闘機の能力水準を見ると、ゼロ戦のスペックは別格だ、特に、航続距離と運動性能は目を見張るものがある。また、主翼の翼面荷重も他国に比べて低く、旋回性能を大幅にアップさせている。さらに、上昇性能も6000メートルに到達するまでのタイムが約7分で、これらが軍用機同士の空中戦(ドッグファイト)を有利に展開できる秘訣でもあった。

 これらを可能にしたのは、軍部の“ムチャぶり”ともいえる要求を満たすために、徹底して軽量化が進められたからだ。

 しかし、軽くするということは使う素材も少なくなるわけで、防御性能の低下に通じかねない。それゆえ、「ゼロ戦は機体性能を重視するあまり、防御力を無視した」「人命を軽視した戦闘機だ」という評価をされてしまうこともある。

 戦闘機に限らず、何かを設計する際には設計思想が反映される。例えば、「航続距離を伸ばしたい」「格闘戦に強くしたい」などだ。兵器の場合、設計思想は当面の戦略をベースに組み立てられる。「相手国はどこか」「どこを戦場と考えるか」「どのように戦うか」といったことを総合的に考えて、最もふさわしい兵器がつくられるのだ。

 ゼロ戦は、資源に乏しい島国の日本にふさわしい軍用機として、航続距離、どの戦場にも投入できる汎用性、生存率の向上が求められた。生き延びるためには敵弾をかわす能力が必須ということで、格闘性能が重視されたのだ。

 例えば、大陸国のドイツは遠洋に打って出る必要性が希薄なため、戦闘機の航続距離は総じて短かった。そのため、第二次世界大戦の「バトル・オブ・ブリテン」(イギリス空軍との航空戦)では、爆撃機を援護するだけの“スタミナ”を持つ戦闘機がなく大敗してしまう。

強すぎたゼロ戦

 さて、現実的な要求に応じて設計されたゼロ戦だが、防御性能を無視していたわけではない。

 当時は「戦闘機の防弾」という考え方の黎明期で、各国とも研究開発に勤しんでおり、特に被弾数が多い背面に対する防御は、アメリカも頭を悩ませていた。各国が防弾に関するシステムやツールの開発を競い合う中、日本は後期型のゼロ戦で防弾のための鋼板を装備する。

 同時に、燃料タンクの自動消火装置も備えられたが、これらが登場するのは1944年4月だ。今考えると、「時期的に遅かったな」という感は否めない。

 これは、ある意味でゼロ戦が強すぎたゆえの悲劇でもあった。ゼロ戦が最初期に配備されて駆けめぐったのは、中国大陸の広大な空だ。ライバルがいないゼロ戦は、ほとんど撃墜されることなく、我が物顔で空を制していた。

 しかし、それでは防御を考える上で、被弾のデータが収集できない。ゼロ戦を設計した航空技術者の堀越二郎も、「相手との力の差があまりに大きかったために、本機の欠点~防弾の欠如、急降下速度~が露呈せず、太平洋戦争に突入したことはかえって不運であった」と著書で述懐しているほどだ。

 ゼロ戦は、防弾のみならず装甲そのものが薄いと指摘されることもある。もともと艦上戦闘機として設計されたゼロ戦は、全備重量などで大きな制約を受けていた。そのため、革新的な「セミ・モノコック構造」を取り入れて、強度を犠牲にすることなく“ぜい肉を落とす”方向で軽量化が図られている。

 装甲を厚くすれば、被弾した場合の生存率を高めることはできるが、格闘性能は望めない。そこで、日本は「より弾に当たらない」方向性を選択し、その結果、航続距離も伸ばせたというわけだ。ゼロ戦開発の裏には、こんな事情があったのである。
(文=熊谷充晃/歴史探究家)

熊谷充晃/歴史探究家

熊谷充晃/歴史探究家

1970 年神奈川県生まれ。フリーライター。歴史探究家。近著は『教科書には載っていない! 戦争の発明』(彩図社)、『幕末明治動乱「文」の時代の女たち』(双葉社)、『テレビではいまだに言えない昭和・明治の「真実」』(遊タイム出版)、『世界文化遺産富岡製糸場と明治のニッポン』(WAVE出版)。週刊誌専属記者などを経て2005 年から著述家に。歴史全般のほか社会時事、スポーツ、芸能、ペットなど、ジャンルにより複数のペンネームを使い分けて活動し、自著は現在30 冊近く。また、企業の公式サイトやフリーペーパーなど多岐にわたるメディアで執筆している。

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