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田中洋「マーケティングのキーインサイト」

ソニー、アバクロ…強いブランドが企業を滅ぼす?過剰な慢心=「全能感」病の罠

文=田中洋/中央大学ビジネススクール教授

 再び、ジョブズ氏が言ったことに立ち返って考えてみましょう。ソニーブランドが凋落した大きな原因は、さまざまな事業範囲に手を広げることで、他社よりも卓越した優秀なソフトウェアをベースとした製品の創造に集中することができなかったことにあるといえるでしょう。

 つまり、ブランドがあまりに偉大になってしまうと、それまで自分たちがやってきたことを否定することが難しくなってしまうのです。ブランドが強力になる代償とは、自己否定を困難にさせてしまう点にあるといえます。

グーグルの「循環」

 では、このようにブランドが強力になると引き起こされるブランド全能感を避けるには、どうしたらよいのでしょうか。

 よくいわれるのは、「危機感を持て」というようなフレーズです。しかし、危機感を持つだけでこの全能感の問題が解決するわけではありません。フロイトが考察したように、もともと人間は全能感を持って生まれてくる存在です。つまり我々の能力の中に、すでにこうした全能感が埋め込まれているのです。したがって、ブランドが強力になるにつれて、こうした問題が不可避的に浮かび上がってきます。

 すべての解決になるかどうかは別として、米グーグルがやろうとしていることは、そのひとつの解決策であろうと考えられます。

 グーグルでは優秀な技術者を雇い続けるために、「自分が世界を変えている」と思わせるプロジェクトを次々と立ち上げています。共同創立者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、次世代の主要な技術動向を見逃さないことに全精力を注いでいるのです。つまり、「私たちの生き方を変えるような」サービスを常に開発できなければ、優秀な技術者を引き留めることができず、それがグーグルの危機につながるということを経営者が認識しているということです。

 ここでは、「革新的な製品を産み出すこと」、そのために「優秀な技術者を雇うこと」、さらにこのために「常に世界を変えるようなプロジェクトを立ち上げていくこと」という循環が生じています。この循環はいつまでも完結することはないのですが、この循環を維持していくことが、すなわちグーグルブランドを発展させていくことにつながっているのです。

 優れた、かつ強力なブランドを構築する上で避けられない全能感の問題は、企業が意識的に解決していかなければならないものなのです。
(文=田中洋/中央大学ビジネススクール教授)

【参照文献】
Abercrombie & Fitch CEO’s ‘cool kids’ comment draws fire
Critics say chief executive sending wrong message to teens http://articles.chicagotribune.com/2013-05-11/business/ct-biz-0511-abercrombie-ceo-20130511_1_abercrombie-fitch-ceo-cool-kids-robin-lewis
Abercrombie’s CEO Mike Jeffries steps down (2014/12/09) Fortune http://fortune.com/2014/12/09/abercrombie-ceo-retires/
Infantile Omnipotence
International Dictionary of Psychoanalysis (2005) De Mijolla-Mellor, Sophie http://www.encyclopedia.com/doc/1G2-3435300695.html
相澤直樹 (2003) 青年期自己愛的人格における誇大特性と過敏特性の関係 神戸大学発達科学部研究紀要, 11(1), 147-159
映画「スティーブ・ジョブズ 1995~失われたインタビュー~ 」特別映像 https://www.youtube.com/watch?v=vkSCLvIaCcI
岡野憲一郎 (1998) 恥と自己愛の精神分析 岩崎学術出版社
「グーグルは「マイクロソフト的失敗」を恐れた もっとも優秀な人を集めた会社が勝つ」Reuters 2015/8/15 http://toyokeizai.net/articles/-/80647
「スティーブ・ジョブズが語る ‘ソニー失敗の本質’と’アップルの本質‘」 https://www.youtube.com/watch?t=108&v=8w2U7nTQqWA
鳥越淳司 (2014)『「ザクとうふ」の哲学』 PHP研究所
「レゴが「ブロック」だけで玩具世界一になれた理由 CEOが語る、知られざるイノベーションの裏側」 日経ビジネス 2015年2月16日号 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150210/277340/?P=1

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

京都大学博士(経済学)
日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。
1975~1996 21年間、㈱電通勤務。
1996~1998 城西大学経済学部助教授
1998~2008 法政大学経営学部教授
2003・4年度コロンビア大学ビジネススクール客員研究員
2008~2022 中央大学ビジネススクール教授
2022~ 中央大学名誉教授
元・東証一部上場・ソウルドアウト株式会社社外取締役
関心領域:マーケティング論・ブランド論・広告論
田中洋 中央大学ビジネススクール教授のオフィシャルサイト

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