「チラリズム」がなくなり、恋愛や性行為への憧れが消滅?
ではバブルの時代、男女はなぜあれほど「恋愛」にこだわったのか。
私は現40代半ば、「いかにも」なバブル世代だ。思い起こせば20代前半のころ、大学生~社会人1、2年生だった時代(90年代前半)は、ケータイもなければインターネットもない、ゲームも今より遥かにしょぼかった。
いうなれば、恋愛やデート、せいぜいサークル活動ぐらいしか「楽しいこと」がなかったのだ。
ところが、今の20代は“デジタルネイティブ”で、多くは子どもの頃から、ケータイやネット環境に囲まれて育った。日本初のキッズ用ケータイ(PHS)「ドラえホン」(当時、NTTパーソナル)の登場が98年、ウィンドウズ98の発売も同年。幼い頃から、電話やメールで、いつでも誰かと直接連絡を取れるのが「当たり前」だったのだ。

その後、さらに便利な時代にはなったが、同時に失われてしまったものもある。恋愛でいえば、「チラリズム」もその一つ。
昔は、異性の裸体やセックスに興味はあっても、子どもの頃に目にするのは難しかった。見たい、知りたいのにわからない。AVだって、大人になってレンタルビデオ店で身分証明書を見せなければ、借りることができない。そのジレンマが、以前は思春期特有の「恋愛へのワクワク感」を刺激していた。
マーケティングでは、これを「ツァイガルニク効果」と呼ぶ。人間は完全なものより、「見えそうで見えない」など不完全なもののほうが心に残りやすい、との研究結果(旧ソビエト)もある。テレビ番組で「続きは30秒後」などと一旦CMに入るのも、この手法だ。チラリズムも同じだろう。
だが今回の取材では、10代のころ、ケータイやパソコンで「エッチな画像」を見てしまったことで、セックスへの憧れを失った男女が大勢いた。
・「中学生の頃、(ケータイ電話の)変なボタンをクリックしたら、いきなり女性の裸がバーッと出てきた。いやらしいポーズばっかりで吐き気がした」
・「小学生のとき、父親のパソコンでインターネットを見ていたら、男女のセックス画像が現れてビックリした。表情が気持ち悪くて、なんかコワいと思っちゃった」
そして、14年に発表された日本性教育協会の調査では、若い男女の「セックス嫌い」に通じる、さらに驚くべき事実が判明したのだ。これについては、次回詳細に見ていきたい。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役)

●牛窪恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター、世代・トレンド評論家、インフィニティ代表取締役。1968年、東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。その後、フリーライターとして独立し、国内外で行動経済(心理)学を学ぶ。2001年4月に、マーケティングを中心に行うインフィニティを設立。『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系列)ほかでコメンテーター等を務める。トレンドやマーケティング関連の著書が多数あり、「おひとりさま(マーケット)」(2005年)、「草食系(男子)」(2009年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネートされた。近著は『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)。
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