フォルクスワーゲン本社工場(「Wikipedia」より/AndreasPraefcke)
すでに報道されているように、VWが搭載した違法ソフトの開発を行ったのは、独自動車部品大手のボッシュである。ボッシュは2007年、VWに対してソフトはあくまでテスト走行用であり、市販車に搭載すれば違法であることを文書で警告していた。VWが不正ソフト搭載車販売を始めたのは、翌08年だ。さらに11年にはVW社内の技術者が、ソフト搭載は違法であると指摘していたという。
驚いたことに、EUもまた13年に違法ソフトの問題を把握していたにもかかわらず、問題を放置していたようだ。
今回の不正発覚の発端は、13年にNPOのICCT(国際クリーン交通委員会)が米ウェストバージニア大学で研究者を雇って行った排ガス検査だった。VWはこの検査結果を受けて14年12月に50万台をリコールし、「問題は解決した」とした。しかし、ICCTが修理後のVW車を再検査したところ、ほとんど状況は変わっていなかった。
VWはその後、調査妨害や言い訳を続けたとされるが、ソフトウェアに疑惑が向けられると観念したようにVWの技術者が“白状”し、ICCTの連絡を受けてEPA(米環境保護局)が調査を行った。その結果が9月18日に発表され、不正が明らかになったのだ。
悪質な犯行
今回の不正は、一般的な試験を行っただけでは見抜けなかったといわれている。米カリフォルニア州の環境規制は、世界でもっとも厳しいといわれる。その当局が見抜けないように仕込まれていたのだから、周到に用意された犯行だったといっていいだろう。悪質といわざるを得ない。
実際、問題のソフトウェアはECU(電子制御ユニット)に組み込まれており、きわめて巧妙につくられていた。走行時に一定時間ハンドルが動かないなど、検査特有の条件を検知して、検査モードと実際に走行するときのモードを切り替える仕様になっていたのだ。
指摘するまでもなく、燃費性能と排ガスクリーンは、いわばトレードオフの関係にある。一方を追求すれば、他方を犠牲にせざるを得ない関係だ。したがってVWは検査モードではNOx(窒素酸化物)を抑える装置をフル稼働させて排ガスをクリーンにし、実際の走行モードではその装置の働きを弱めていた。つまり、走行時は、排ガスクリーンを犠牲にして燃費を重視するモードに変化させていたというわけだ。