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片山修「ずたぶくろ経営論」

何がVWを悪質な犯行に走らせた?無理な「トヨタ超え」で歪んだ拡大路線の罠

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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進行していた深刻な事態

 こうした拡大路線のウラでは、深刻な事態が進行していたのだ。VWの営業利益率は、トヨタの約10%に比べて約6%と低迷していた。利益率の高い高級車ブランドを除き、中核ブランドである小型車中心のVW単体の利益率に至っては2%台にすぎなかった。

 これは、「成長」というより「拡大」のための「拡大」に陥った証しである。実はVWが09年にスズキと包括提携を締結したのは、スズキの小型車の生産ノウハウが欲しかったからだといわれた。一方、スズキはVWの環境技術に期待したといわれた。ところが、拡大路線を走るVWは、スズキを傘下におさめようとするばかりで、スズキが期待した環境技術の提供は得られず、それが提携ご破算の原因といわれた。今振り返ってみると、VWはスズキに環境技術を提供しようにも、そもそも技術を持っていなかったのではないかという厳しい見方もできるのだ。

 思い起こしてみれば、VWは90年代にはホンダと同規模の会社だった。環境技術に巨額な費用がかかることから、自動車業界では2000年前後に国際再編が叫ばれ、当時トヨタが買収相手として考えているのはVWではないかと、冗談半分で語られたものだ。

 それが、あれよあれよという間に販売台数を伸ばし、トヨタに拮抗するようになった。それは、常識的に考えても相当ムリな成長軌道だったといえる。なにしろ、このままいけば15年はトヨタを抜いて世界販売台数1位、20年以降は独走態勢に入るのではないかと見られていたのだから。

数字のワナ

 私は、VWは典型的な“数字のワナ”に陥ったと思う。

 断るまでもなく500万台と1000万台では、開発、調達、生産、販売などあらゆる場面において、オペレーションやマネジメントがまったく変わってくる。ましてや、自動車産業にとって1000万台は未知の数字だ。それを短期間で実現しようとすれば、経験やノウハウの不足を補うため、組織に無理が生じる。それが今回の不正事件につながったのではないかと思われる。

 トヨタは04年以降、米国のバブル景気を背景に拡大路線をひたすら走った。07年には、「09年に1040万台」という目標を掲げた。ところが、翌08年にリーマン・ショックに襲われる。在庫の山をつくったうえ、巨額赤字に陥る。1000万台を目前にして逃しただけでなく、その後10年末以降はブレーキ不具合による大規模リコールが発生し、ブランドイメージを大きく損なう結果となった。ホンダも伊東孝紳社長時代に600万台を掲げた末、「フィット」のリコールで痛い目を見た。

 トヨタ社長の豊田章男氏は現在、「台数を追わない」としているが、これには過去の拡大路線への反省がある。いったいVWはこのときのトヨタの失敗を、どう分析したのだろうか。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

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