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やっぱりタワーマンション購入はこんなに危ない!節税対策の罠、巨額負債抱える恐れも

取材/文=風間文子
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タワーマンション節税術のカラクリ

やっぱりタワーマンション購入はこんなに危ない!節税対策の罠、巨額負債抱える恐れもの画像1「Thinkstock」より

 今年1月に相続税が改正され、メディアで増税と報じられて半年以上がたつ。そして先頃、税務に特化した情報誌「旬刊 速報税理」(ぎょうせい/7月11日号)は、“タワーマンション節税術”について「評価方法がパブリック・コメントにかけられる模様」と報じた。以前から相続税対策として脚光を浴びる同節税術だが、広く国民から意見・情報を募集する制度であるパブリック・コメントにかけられるほど重要な問題なのか。筆者は取材を開始した。

 まずは同節税術のカラクリだが、相続税を決める際に資産として不動産がある場合は、国税庁による評価方法で課税率が決まる。現状当局の不動産評価の方法は、土地全体の面積に対する物件の床面積で決まる。タワーマンションのように上層部と下層部で価格がまったく違っても、広さが同じであれば評価も同じとなる。また、タワーマンションなどは戸数が多く、一戸当たりの所有面積が狭くなり、相続税を計算する際の評価は相対的に低くなる。結果的に現金を相続するより大幅に節税できるというものだ。

 では、どんな人が利用しているのか。9月中旬、タワーマンションが乱立する湾岸エリアの一角、中央区の勝どき駅を訪ねた。駅は2020年の東京五輪に備えて増設工事が行われ、周囲では首都高速晴海線の延伸工事が行われていた。湾岸エリアの物流効率化を図るためだそうだ。まさに激変の渦中、筆者がここを訪れたのは勝どき駅前でYさんという72歳の男性と会うためだった。彼も相続税対策のためにタワーマンション購入を考えているひとりだ。

「たとえばここで1億円を相続した人がいた場合、これに対する課税率は30%となり、控除額700万円がつくので、約3000万円の相続税が発生することになります。しかし、1億円でタワーマンションの高層階を購入して子供に相続させた場合はどうでしょうか。評価額は時価に関係なく面積で決まり、仮に評価額が3000万円だったとすると、課税率は15%となり、控除額が50万円、計400万円の相続税を支払うだけですみます。さらに、もしも今後、物件が値上がりして利幅が出れば、普通に相続するよりもプラスの遺産になる。最上階は部屋が広くなるから駄目で、あくまで狙うは1LDKなどの広くない部屋。その中で可能な限り価格も高い物件です」(Yさん)

 駅前のファミリーレストランで嬉々として話してくれたYさんは、妻に先立たれ、こんな時代だからこそ息子夫婦と孫のためになりたいと言う。そして「大方の資産はすでに生前贈与し、あとは杉並区の自宅と生まれ故郷にある土地を処分してタワーマンションの購入を考えている。ひとりで動けなくなれば介護施設に入所して、マンションは賃貸として運用する」とも語る。そして東京・晴海の「ドゥ・トゥール」の販売予告パンフレットを見せてくれた。

「銀座までの直線距離は2.2キロ。地上52階建ての免震ツインタワーですよ。施設内にSPAがあり、駅までの専用シャトルバスもある。10年は資産価値も減らないだろう」(同)

節税術が不動産バブルを支える構造

 こうした評価の差額を利用した方法が流行するのは、ここ数年の都心を中心とした不動産バブルが背景にある。投資目的の需要が高まり、資産価値は上昇に上昇を重ねる。相続税対策者からすると、節税どころか利幅も出せるのではという期待は膨らむ。結果的に相続税対策による購入が、不動産バブルの一翼を担っている。

 なかには、こんな“強者”もいた。オラガHSC株式会社代表であり、『2020年マンション大崩壊』著者の牧野知弘氏が語る。

相続税対策で物件を購入する際に、わざと借金をして購入する方も多くいるようです。被相続人の借金は相続資産として合算されます。たとえば本来は5億円だった相続額を3億円の借金をすることで、2億円に圧縮できる。さらに借入金の3億円で節税効果がありそうなタワーマンションを購入することによって、さらに節税効果となる。場合によっては相続税を1円も払わなくていいというケースも生じます。相続した子供は元本や金利を返済するのに十分な運用ができれば、もしくは将来的に物件の価値がどんどん上がって借入金より多くなれば、問題はないわけです」(牧野氏)

 しかし、いきすぎると叩かれるのは世の常。代表的な事例としては2011年の判例だろう。概要は07年7月、被相続人が入院。この時点で意思能力がないにもかかわらず、翌月に相続人が代理となってタワーマンションを2億9300万円で購入。同年9月に被相続人が死亡後、相続人は約6000万円の評価で相続を申告。間もない翌年7月、その物件を2億8500万円で売却したというものだ。これが税務当局によって相続税を逃れる租税回避という行為と見なされ、結果的に時価評価となり、約3億円の相続として課税された。

 こうしたこともあり、「タワーマンション 節税」というキーワードでインターネット検索すると、節税術を指南する不動産コンサルタントも多くいるが、取材したコンサルタントやファイナンシャルプランナーによっては指南しないと断言する者も少なくない。

「この方法は相続人や被相続人の欲で判断が歪むので、推奨していません。しかも税制なんて途中で変わりますし、解釈も変わりますので責任は持てません」(ファイナンシャルプランナー)

 つまりタワーマンション節税術というのは、合法ではあるが状況によっては税務当局の判断で否認されてしまう、グレーな行為に当たる。先述した牧野氏が語る。

「当局は、大抵は個別で処理します。しかし問題が大きいと判断すれば評価体系そのものを変えてしまうことは難しいことではありません。不動産鑑定でいう『効用比』という評価方法に変えるという方法もあるのです。そうなるとタワーマンションのような上層階ほど価値が高い場合など、低層階と違いをつけることができます。その気になれば、法令より変更が容易な通達で半年後にでも規制することはできます」(牧野氏)

 相続人が事情を知らずに相続後すぐに売却したり、相続前に社会的問題視されて評価方法が変わってしまえば、その途端に節税効果はまったく意味がなくなるということだ。

ついに「売り」が始まった?

 一方で牧野氏は、この節税術がご時世的に大きなリスクを抱えていると懸念を示す。

「節税術を利用する人たちというのは、根底にマーケットが厳しい状況にならないという根拠のない自信がある。しかし世の中、そうは上手く回りません。当局の動向次第で節税の意味がなくなれば、相続した子供が住居として活用するか、純粋な不動産投資ということになります。後者の場合、物件の価値がどんどん減っていく可能性は今後、大いにあり得る。国内外と震源地を問わず、経済が悪化して起こる不動産バブル崩壊です。そうでなくとも20年の東京五輪以降、少子高齢化で市場は右肩下がりが予測されます。そうなっても借入金は暴落していく価値に応じて減るわけではありません。

 3億円を借金して3億円の物件を買ったはいいが、運用が上手くいかない。売却しようと思っても2億円でしか売れなかった。そうするとマイナス1億円の借財を抱えることになります。市況がバブルの起こる7年ほど前なら良かったかもしれないが、今は状況が違う。親が良かれと思って組んだ相続税対策で、子供や孫が首を吊るというような非常に残念な事態になりかねない」(牧野氏)

 取材したディベロッパーの中には、こんなことを言う者もいた。

タワーマンションに限らず、アパートをつくって売る人、あとは税理士。それから金融機関。それらがグルになって、相続税対策が必要だと思われる土地持ちや富裕層のおじいちゃん、おばあちゃんにハンコを押させて買わせるわけです。そうすると売った側の人々にとって、相続税対策が上手くいくかどうかなんて関係ないのです。物件が売れることに意味があるわけで、金融機関もローンが出せればいいわけで、税理士も報酬を貰えればよい。みんな、売った時点で完結なんです。景気が傾いているから、売れるときに売らないとね」(デベロッパー)

 別の不動産業界関係者によれば「最近、東京・湾岸エリアのタワーマンションの“売り”が圧倒的に増えている」という。すでに利幅が出て、万が一のことが起こる前に売り抜けてしまおうというものだ。そんななかで相続税対策者のなかにも、市場の暴落や評価方法の変更といったリスクを考え、相続させるのをやめて今のうちに売りに出す人もいるだろう。当局が規制に動くタイミング次第では、相続税対策者がパニックに陥り、不動産バブルそのものを崩壊させるトリガーにもなりかねない。これがタワーマンション節税術が抱える現実だった。

当局は成り行きを静観

 こうした状況下、ますます当局の動向は気になる。先述したデベロッパーは「当局は、景気をよくしようということで厳しく問わないと思う。高層マンションの高額帯がよく売れるというのは、不動産マーケットにとってはいいことです。今はお手盛りで、あまり目くじらを立てるのはやめておこうと考えているのではないでしょうか」という。

 永田町に出入りする全国紙記者からは「政治家の中にも、こうした節税術を利用している人がいると聞く。もし本当なら、規制に対しては腰が重いのではないか」という声も聞かれた。

 筆者は当局の動向が気になり、国税庁に取材を申し込んだ。「タワーマンション節税術の流行をどう見ているか。対策や評価方法変更の検討をしているのか」と。すると、最初は税制の改正などを担当する財務省主税局に聞いてくれと言われた。しかし主税局は「評価の判断や税法の解釈は国税庁が担当となる」と言う。最終的に取材に応じた国税庁広報担当者から得た見解は、次のようなものだった。

「通達を変更する予定があるかですが、担当部署からは『社会経済の実態を踏まえて必要な検討を行っているところである。ほかの安全にも配慮しつつ、相続税の財産が適正なものになるように努めていく』ということでした」

 つまり「まだ即座に規制をするようなことは考えていない」ということだ。慌てて動いているわけではなく、通達に関してもまだ具体的な議論には至っていない。成り行きを見ながら検討を行っていくということだ。

 当事者からしたら一安心というべきだろうか。ただ、今回の取材の中で、相続税などに無縁な筆者はこんなことも考えた。将来、日本の社会保障の財源はパンクすると指摘される中、一部の人間のイタチごっこで1つの業界が左右され、予定される税収も見込めない状況が、税制として効率的かつ合理的といえるのかどうか。

 こうした問題は相続税だけに限らず税制全体にいえる。17年には消費税が10%になり、「庶民を苦しめるのか」との批判は少なくない。しかし、10%であっても効果は限定的で、これまでの国の借金を返済するだけの増税にすぎない。政府は法人税を下げて企業競争力を上げ、結果的に所得税を増やそうともしているが、なかなか上手くはいかない。皆が皆、自分は損をしたくない、その繰り返しだ。それでも国は維持できると思っている。

 目先の資産と、将来も持続可能な日本にするための税制全体の見直し。子供や孫の世代に残すべきはどちらがいいのか。世論を押し切り、国会を混乱までさせて成立させた安保関連法案よりも、じつは急務な課題ではないかと危機感を募らせる。
(取材/文=風間文子)

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