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VW不正を特殊と片付けて良いか? 日本メーカーも検査条件下のクリア自体は普遍的

文=井上隆一郎/東京都市大学都市生活学部教授
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 しかし、ディーゼルエンジンは構造が複雑、精密であり、燃焼過程も特殊なため、排気ガス規制に対応することはガソリン車よりも困難である。VWも規制への適応には相当苦労したのであろう。しかし、製品差別化の鍵であったので、この規制のクリアは絶対条件であった。そんな事情を背景に、今回の不正は生じたといえよう。

不正に手を染める心理をどう見るか

 実は「前代未聞の不正」と断じながら、このような不正を起こす企業の心理はそれほど特殊ではないのかもしれない。どんな道路状況、環境においても、常に制限速度以内の速度で走行するドライバーは、どのくらいの比率なのだろう。想像だが、あまり多くないのではないか。しかし、自動速度違反計測器(オービス)やパトカーの付近で制限速度以内で走らないドライバーもまた少数だろう。

 また、スポーツ競技におけるドーピング規制についても同じような心理が働くことがある。欧州でのビッグ・スポーツ・イベントであるツール・ド・フランスで、総合優勝7連覇という空前絶後の「偉業」を達成したランス・アームストロングは、競技後行われるドーピング検査ではすべて「シロ」であった。その意味ではドーピングをしていない、と認定を受けていた。

 しかし、彼をめぐる噂は、競技の表舞台の背後で、ひそひそ話として継続されていた。彼は何度も公式に否定したのだが、結局内部告発によりドーピングの事実が指摘されるに及んで、最終的に反論を停止した。検査に引っかからないように、高いレベルでコントロールされているドーピングを繰り返していたとされる。その結果、総合優勝7連覇の「偉業」は取り消され、この競技の歴史から抹消された。

 規制に対応する際の心理は、多くの場合、本末転倒になっている場合が多い。常時から規制をクリアすることを求められているのは理解しつつも、監視・検査の際だけクリアすればよしとする心理は、それほど特殊ではない。

デジタル技術のブラックボックス化が発見を困難にした

 
 さらに問題を難しくしたのが、デジタル技術である。本来メカ的なもの、あるいはアナログ的な不正であれば、不正は発見しやすい。仕掛けが目に見えることが多いからだ。今回のVWの不正は、2008年からトップも知っていたといわれている。しかし、トップが知り得た可能性は極めて小さい。トップに見えるのは規制値と、結果としての達成値だけだからだ。そのための技術的な条件が書いてあったとしても、それを理解することは難しかっただろう。

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