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石堂徹生「危ない食品の時代、何を食べればよいのか」

危険な抗生物質使用の食肉、大量流通の恐れ スタバやケンタ等が調査不合格

文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト
危険な抗生物質使用の食肉、大量流通の恐れ スタバやケンタ等が調査不合格の画像1内閣官房 HP」より

 今月初めにTPP(環太平洋経済連携協定)が大筋合意され、日本政府は食品添加物や農薬、遺伝子組換えに関連して、「TPPによって、わが国の食の安全・安心が損なわれることはない」と強調した。それを鵜呑みにすることはできないが、実は特に注意が必要なのは、農産物の中でも牛肉や豚肉、鶏肉など畜産物の関税削減・撤廃などによる、食肉の輸入量拡大の問題だ。

 食肉の輸入が増えれば価格が安くなって良いとの消費者の声もあるが、そこに食の安全に関する大きな落とし穴がある。それは、抗生物質添加の飼料や水を与えられた牛などの食肉の輸入量が増加する点である。牛などの体内で抗生物質が効かない耐性菌が増え、その耐性菌が付いた肉を人が食べると、また人の体内で耐性菌が増えて、肝心の病気のときに抗生物質が効かなくなる。この薬剤耐性菌による感染症治療の深刻化という重大な問題が、起こりかねない。

米国大手ファストフードチェーンの大半が不合格

 9月半ば、CNN(米国ケーブルニュースネットワーク)【編注1】の日本語訳サイトに、大変興味深い記事が掲載された。米国のフレンズ・オブ・ジ・アースなど6つの消費者・環境団体が、米国の大手ファストフードチェーン25社を対象に、メニューに使われている食肉の抗生物質の使用状況について調査した。

 その結果、抗生物質を定期的には使わずに育てた家畜の肉を主に使用していると報告して「A」評価とされたのは、チポトレとパネラブレッドの2社だけだった。チックフィレイは2014年に鶏肉から抗生物質を排除すると表明して「B」評価とされた。鶏肉の抗生物質使用制限を打ち出し、期限も明示したマクドナルドと、期限は明示しないもののすべての食肉で使用制限を打ち出したダンキンドーナツは「C」評価だった。

 残るサブウェイ、ウエンディーズ、バーガーキング、デニーズ、ドミノ、スターバックス、ピザハット、KFC、デイリークイーンなどは、いずれも不合格の「F」評価だった。

 フレンズなどは、「家畜生産者が定期的に家畜に抗生剤を投与すると、耐性を持つようになった細菌が繁殖して我々の社会にまで拡散し、さらに大きな耐性菌の問題を引き起こす」と指摘した。その上で、「米国の大手飲食チェーンのほとんどは、食肉への抗生剤使用に対する不安の高まりに実質的に対応できていない」と批判した。

厄介な問題の「耐性菌」の誕生

 抗生物質はカビなどの微生物が生み出す薬で、細菌などほかの微生物の増殖を抑えたり、殺す作用がある。ただ、現在は化学的に合成されることも多いため、抗菌とも呼ぶ。また、抗生剤(抗生物質製剤)と呼ばれることもある。製剤とは、薬を投与しやすい形や性質・状態にすること。つまり、抗生物質も抗菌薬も抗生剤も実質的に同じと考えてよい。ここでは統一して抗生物質と呼ぶ。

 1943年、アオカビから発見されたペニシリンが世界初の抗生物質で、肺炎や敗血症などの治療に役立った。その後、テトラサイクリンなど数多くの抗生物質が開発された。

 抗生物質は万能薬ともいわれてきたが、実に厄介な問題を抱えている。抗生物質を繰り返し使うことによって、「耐性」といって細菌などが抵抗力(耐える力)を持つようになり、抗生物質が効かなくなってしまう。その効かなくなった細菌を「耐性菌」(薬剤耐性菌)と呼ぶ。

 なぜ耐性菌ができるのか【編注2】。それは細菌が絶滅を避け、なんとか生き延びようとするためだ。細菌が遺伝子の突然変異や、新しい遺伝子を獲得することによって、抗生物質があまり効かないようにする酵素を生み出したり、抗生物質が細菌の細胞膜を通過する力を弱めてしまう。

 この遺伝的変化によって生まれるのが耐性菌であり、抗生物質が効く細菌を感受性菌と呼ぶ。多数の感受性菌のうちの1つが突然変異によって耐性を獲得すると、これが増殖して耐性菌が出現することになる。感受性菌と耐性菌を試験管内で一緒に培養すると、簡単に感受性菌が耐性菌になる。現在、特に問題になっているのは、結核菌や赤痢菌、ブドウ球菌などだという。

 耐性菌に加えて、さらに問題になっているのが「多剤耐性菌」だ。これは系統の異なる2種類以上の抗生物質が効かなくなった細菌を指す。結核菌や赤痢菌のほか、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、肺炎桿菌などがある。

米国で年間2万3000人が死亡

 実は、日本では大きなニュースになってはいないが、多剤耐性菌を含めた耐性菌の出現と蔓延は、世界的な脅威となっている。

 例えば米国疾病予防管理センター(CDC)の13年のデータを基にした「米国における各種耐性菌の年間推定患者数と死亡者数」【編注3】によれば、年間の推定患者数合計200万人以上のうち推定死亡者数は2万3000人。同推定死亡者数のトップがMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症=敗血症など)で1万1000人、次いで耐性肺炎球菌の7000人だった。

 別のデータ【編注4】には、「耐性菌の脅威はテロリズムに匹敵 欧州では年間2万5000人が死亡(14年1月15日)」とある。

なぜ医薬品を非医薬品目的に使うのか

 耐性菌はこれだけ大きな人的被害を及ぼすのだが、家畜との関係はどのようになっているのか。

 家畜での抗生物質の使用目的は2つある【編注5】。1つ目は、人同様の病気治療のための動物用医薬品としての使用だ。2つ目が、成長促進や飼料効率の改善が目的だ。これは低濃度で長期間にわたって飼料に添加される抗菌性飼料添加物であり、医薬品ではない。先にフレンズなどが、「家畜生産者が定期的に家畜に抗生剤を投与する」と指摘したが、これは医薬品ではなく、後者の成長促進目的に当たる。それにしても、なぜ医薬品を、非医薬品目的に使うのか。

 1946年に米国ウィスコンシン大学の動物衛生学研究者、ムーアらが鶏のヒナに対し、ストレプトマイシンなど微量の抗生物質を定期的に与えたら早く成長したと報告【編注6】したのが発端だ。その後、50年代に米国食品医薬品局(FDA)は、家畜の成長を刺激する目的の抗生物質使用を承認した。それ以来、さまざまな抗生物質が牛などに対し、飼料や水と共に与えられてきた。

 FDA発表【編注7】によれば、米国では12年の場合、牛89万頭と豚6600万頭、ブロイラー80億羽などに対し、合計1450万kg(3220万ポンド)もの抗生物質が使われた。09年の同1270万kgから16%増加したことになる。この1450万kgは、金額にして人対象のそれの4倍以上になるという。

 これは、人と家畜の合計で1450万kgのざっと5倍もの超大量の抗生物質を米国人と、そして食肉を輸入した日本人などが分けて摂取していることを意味する。

求められる賢明な対策

 話はこれで終わりではない。

 昨年5月、WHO(世界保健機関)が「地球規模で拡大しつつある薬剤耐性菌について警告」した。そして7月、英国のキャメロン首相は「多剤耐性菌の蔓延と有効な抗菌薬の枯渇の中で、人類は医療の『暗黒時代』に逆戻りしつつあると警告」【編注8】した。さらに9月、「米国政府は薬剤耐性菌問題を克服するために、大統領令によるアクションプランを発表」した。

 この3件は何を意味しているのか。13年3月、CDCの「悪夢の細菌」に対する警告【編注9】が背景にある。

 85年、大半の細菌に対して効果を示すという意味で、抗生物質の「最後の切り札」といわれるカルバぺネム系抗生物質が開発された。ところが間もなく、カルバぺネム耐性菌が登場し、蔓延し始めた。大半の細菌に対する効果が一転し、大半の抗生物質を無効にすることになった。つまり、一度細菌による感染症にかかると、治療が難しくなる。

 カルバぺネム耐性菌には肺炎桿菌や大腸菌、さらにその仲間の細菌が多く、肺炎や尿路感染症の原因になりやすい。ほかの患部の手術後、感染症や腹膜炎などの原因になり、血液中に侵入して敗血症を起こすと、多臓器不全などを経て半数が死亡する。 

 米国では、カルバぺネム耐性菌がこの10年間で4倍に増えたが、世界的な広がりを見せ始めた。欧州では、米国のカルバぺネム耐性菌の中の別のタイプが各地でアウトブレイク(流行)し、その点で状況は米国よりも深刻だ。

 またギリシャやイスラエル、トルコ、中国の上海、香港など、中東諸国やアジアなどにも広がりつつあり、日本でアウトブレイクする可能性もある。その侵入を瀬戸際でガードする賢明な対策が必要な今、逆にTPPで米国の牛肉などの大量輸入への道を開く。
(文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト)

【編注1】CNN「食肉の抗生剤使用、飲食大手が軒並み『不合格』米調査」2015年9月16日

【編注2】柳下徳雄「(日本大百科全書(ニッポニカ)の解説など

【編注3】日本化学療法学会、日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会、日本細菌学会、日本薬学会『耐性菌の現状と抗菌薬開発の必要性を知っていただくために」の「新規抗菌薬の開発に向けた6学会提言」ファクト・シート、2014年5月1日

【編注4】薬剤耐性菌研究会「薬剤耐性菌情報・海外」群馬大学大学院医学系研究科附属薬剤耐性菌実験施設、2014年1月17日

【編注5】「薬剤耐性菌についてのQ&A」農林水産省動物医薬品検査所、2010 年1月

【編注6】(1)ムーアら『ストレプトマイシンなどの使用によるヒナの栄養摂取の研究』(筆者仮訳)「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・FDAケミストリー」1946年 (2)ディビッド・ケスモデルら著『消える消費者の要求に答え食肉企業は抗生物質の不使用へ』「ザ・ウォール・ストリート・ジャーナル」日本語訳、2014年11月3日

【編注7】(1)【編注6】の(2)と同じ (2)【編注4】と同じ

【編注8】【編注4】と同じ

【編注9】国立感染症研究所「米国CDCが警告を発したカルバぺネム耐性腸内細菌(CRE)に関するQ&A」2013年3月8日

石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト

石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト

1945年、宮城県生まれ。東北大学農学部卒。養鶏業界紙記者、市場調査会社などを経て、フリーに。現在、農業・食品ジャーナリスト

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