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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

首都圏の医療が崩壊の危機 医師不足深刻で中東並み 解消と逆行する厚労省の詭弁

文=上昌広/東京大学医科学研究所特任教授
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 舛添氏は厚労大臣当時、今後10年間で医学部定員を5割増やすことを打ち出していた。つまり、医学部定員数が1万2000人になるまで、毎年400名ずつ定員を増やすことを目指そうとした。09年に与党となった民主党も、このことをマニフェストに明記し、舛添氏の方針を踏襲しようとした。

 しかしながら、この方針はやがてうやむやとなっていく。医学部定員が当初の予定通り増員されたのは10年度までで、11年度には77人の増員に減らされる。東日本大震災で東北地方の医師不足が顕在化したにもかかわらず、医学部定員の増員にはブレーキがかかった。それは、民主党内で医学部定員増を進めてきた仙谷由人氏や鈴木寛氏の影響力が低下したからだ。その後、現在にいたるまで大きな変化はない。15年度入試での定員は9134人で、前年から65人増やすだけだ。

 さら9月13日付日本経済新聞は一面トップで「医学部の定員削減、政府検討 医療費膨張防ぐ」と報じたが、厚労省は20年から医学部定員を削減しようとしているという。結局、医学部定員増は従来の医学部の定員を約15%増員したところで頭打ちになりそうだ。これでは、首都圏の医師不足は改善しない。

 なぜ、15%の医学部定員の増員ではダメなのだろう。それは、もともと首都圏に医学部が少ないからだ。例えば、人口約393万人の四国には4つの医学部があるが、人口約620万人の千葉県には千葉大が1つしかない。首都圏に広げても、人口約3930万人に医学部は19しかない(地域医療への影響が限定的な防衛医大を除く)。人口207万人に1つで、四国の半分だ。

 首都圏の医師不足を緩和させるには、全国一律に医学部定員を増員することではなく、首都圏での養成数を増やすことだ。現在、成田市に医学部を新設することが議論されているが、これを含めても人口197万人に1つ。これだけでは効果は限定的だ。

想定される事態

 では、首都圏の医師不足は、どうなっていくのだろう。我々の研究結果をご紹介したい。

 図5は東京圏の75歳人口千人あたりの医師数の推移だ。60歳未満と75歳未満の医師についてシミュレーションした。これは情報工学を専門とする井元清哉教授(東京大学医科学研究所)との共同研究である。


 一目見てわかるが、首都圏のすべての県で医師不足は悪化する。団塊世代が亡くなる35年頃に一時的に状況は改善するが、その後団塊ジュニア世代が高齢化するため、再び医療ニーズは高まる。多くの県で50年の75歳人口千人あたりの60歳未満の医師数は、現在の3分の2程度になる。その頃の東京の医師不足の状況は、10年当時の千葉県や埼玉県とほぼ同じである。両県では医師不足によって病院が閉院し、救急車のたらい回しが社会問題化している。

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