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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

首都圏の医療が崩壊の危機 医師不足深刻で中東並み 解消と逆行する厚労省の詭弁

文=上昌広/東京大学医科学研究所特任教授
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 その病院に到着し、救急外来担当医が診察したところ、「特に問題なし。こんなところまで来ずに、近くで診てもらうように」と言って帰された。それでも、納得しなかった母は翌日、筆者に電話してきた。筆者は尼崎で在宅医療を営む旧知の長尾和宏医師に電話で相談した。長尾医師はすぐに往診にかけつけ、心不全・肺炎と診断した。そして、最寄りの救急病院である関西ろうさい病院に入院させてくれた。祖母は、一時的に軽快したものの、この病院で亡くなった。母は毎日見舞いに出かけ、最期を看取った。納得できる最期だったようだ。長尾医師や関西ろうさい病院の医師に感謝している。

 この件で示唆に富むのは、自宅と関西ろうさい病院の距離はわずか数キロだったことだ。タクシーで1000円程度の距離だ。ところが、かかりつけの医師から、この病院を紹介されることはなかった。母も飛び込みで受診できなかった。心理的障壁が高かったのだろう。もし、筆者が長尾医師と面識がなければ、おそらく母は自宅で困り果て、どこでもいいので遠くの急性期病院に入院させていたはずだ。お見舞いに行くにも時間がかかり、負担は大きい。今回のような満足のいく看取りはできなかっただろう。

 では、これは誰にでもできる看取りではない。関西ろうさい病院は、信頼がおける長尾医師の紹介だからこそ、柔軟に対応してくれたのだろう。筆者が医師であることも多少影響したのかもしれない。見舞いに行ったが、病床はほぼ満床だった。祖母を入院させるため、さまざまな調整をしてくれたのだと思った。
 
 キーパーソンを知らなければ、いいサービスの提供を受けることができない。これこそ、「コネ社会」だ。日本では、すでにいい医療を受けようと思えば「コネ」が必要になっている。尼崎の医師数は、人口10万人あたり246人。千葉・埼玉・神奈川よりはるかに恵まれている。それでも、この状況だ。首都圏の惨状とは比べものにならない。

 首都圏の医師不足の状況はますます悪化する中で、私たちはどうすればいいか。

 個人が逞しく生きるしかない。信頼できる医師と関係を構築し、何かがあった際には、適切な専門医や病院を紹介してもらうようにすることをお奨めする。
(文=上昌広/東京大学医科学研究所特任教授)

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