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「ココロに効く(かもしれない)本読みガイド」山本一郎・中川淳一郎・漆原直行

これはスゴい良書だぞ!とっても多くの示唆と興奮を与えてくれる『プリンス論』

文=中川淳一郎/編集者

これはスゴい良書だぞ!とっても多くの示唆と興奮を与えてくれる『プリンス論』の画像1『プリンス論』(西寺郷太/新潮新書)
【今回取り上げる書籍】
プリンス論』(西寺郷太/新潮新書)

 う~ん、この前に西寺氏の『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』(NHK出版)について書評を書いたのに、また同じ著者の本の書評を書くのもどうかとは思ったのだが、おもしろいんだからしょうがねぇよ、ということで今回はこの本を紹介する。

 いや、いろいろと本を「著者買い」をこのたびはしたワケですよ。基本的にはものすごく名の通った学者や評論家の執筆した著書をいくつか買ったのですが、いずれにしても「今流行りの事象に、テキトーな感想を述べただけの『語りおろし』のインタビュー」なんじゃね? という疑惑を持たせるような内容の本だらけなのである。本当につまらん本だらけだった。

 何回かのインタビューでちゃっちゃっとつくった本なのか、本人が書いたのかどうかは知らんのだが、ゴーストライターの世界というものは、「有名な人に4回か5回会って、ちゃちゃちゃっ、と本をつくってしまおう。バンザーイ」みたいな状況もけっこう存在するのだ。で、これらの著者の忙しさからすれば、恐らくはゴーストだろう。クレジットには「編集協力・○○」や「構成・○○」なんて別人の名前が入っているからね。「著者(笑)」のオッサンもオバサンどもも、どうせこれ出して印税を120万円ぐらいもらえれば御の字、場合によっては400万円ぐらいいけばいいな、的に考えていると偏見ながらオレの意見を述べておく。

 そんな中、そういったクソ本を何冊か読んだ後、新潮社の離れにある「新潮社クラブ」に缶詰になって書いたという西寺氏の『プリンス論』は輝きを放ってくるのである。オレ自身、プリンスについては『I Could Never Take The Place Of Your Man』という歌がかなり好きで、1987年、アメリカに引っ越した時にMTVで頻繁に流れていた歌だったのだ。当時は「アメリカくそったれ!」と思いつつも「こんなに素晴らしい音楽があるのであれば、しばらくはいよう」と思っていたのだ。あとは『Let’s Go Crazy』とかも好きだったな。さらにいうと、徳弘正也著で、「週刊少年ジャンプ」(集英社)連載にしてはエロ過ぎる『シェイプアップ乱』にて「今はマイケル・ジャクソンよりもプリンス」といった文脈で登場したことも明確に覚えている。

誰もが成し遂げたことがないことを達成

 さて、『プリンス論』。本書は何が良いか。それは、新書という形態で、「誰もが知ってるけど実際のところは一体どんな人物かは知らない」人物に関する「伝記」を書いたことにある。通常、伝記というものは、子供向けか、ほかにもいろいろあるのかもしれないが、おどろおどろしいエラソーな単行本の形態で出版されるものである。

 『スティーブ・ジョブズ1・2』(講談社)とかに代表されるが、「よし、発売日に買えた。よし、勉強するぞ」という妙な権威主義的なかたちで読むものなのだが、プリンスという若干クレージーな側面も持っている稀代のミュージシャンをそういった座敷で正座して読む気にはならないのである。ましてや『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』でプリンスがすんでのところで「呪い」にひっかからなかったエピソードを読んでいただけに、その真相を知りたいと思うのは当然ではないか。

 そこに「157センチとされる身長」が影響しているのでは? と本書では予測されており、こうした細部に渡る一見どうでも良さそうなエピソードから、プリンスを読み解いていく。決してプリンスを礼賛するでもなく、あくまでも年代を追って一つ一つその時にリリースした作品を紹介するとともに、資料を基に関係者の発言を拾っていく。

 この緻密な作業を経て「伝記」が誕生するのである。確かに、プリンスの歌は何曲も知っているし、アルバムも持っている。だが、実際にどんな人物なのかについて興味を抱いたことはなかった。しかし、読み終えた後にはプリンスに対する興味が湧いたとともに、別の「伝記」も読みたくなった。

 それは、音楽業界に限っていえば、Guns N’ Rosesの初期の頃の名ギタリストである「イジー」や、Boys Town Gangの大ヒット曲『Can’t Take My Eyes Off You』のプロモーションビデオに登場する2人の男のその後の人生がどうなったのかや、マイケル・ジャクソンの『The Way You Make Me Feel』のミュージックビデオに登場する女性のその後のキャリアと、あのビデオに登場することが何をもたらしたのか、などを知りたい。

 いや、これをオレがやるべきでは! といった発奮をさせてくれるのだ。というのも、西寺氏は「プリンスの伝記」という誰もが成し遂げたことがないことを達成したのだから。つまり、多くの人が潜在的に知りたいであろうことについて、徹底的に調べることにこそニーズがあるよ、というモノカキにとっては良いヒントを与えてくれたのだ。さらに、一般企業の商品開発担当にとっても示唆を与えてくれるのが『プリンス論』なのだとオレは思ったのである。
(文=中川淳一郎/編集者)

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