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永井隆「エコノミック・ウォー」

ビール各社、巨大海外勢に飲み込まれる危機? 狭い国内シェア争い偏重の代償

文=永井隆/ジャーナリスト

日産との違い

 ABインベブによるSABミラー買収の一報が流れた頃、元祖コストカッターである日産自動車のカルロス・ゴーン社長と立ち話をする機会があった。東京モーターショーの前夜だったが、ゴーン氏は99年の来日以来、初めてマスコミとの懇親会に臨んだのだ。たまたまゴーン氏の唾が飛んでくる距離にいた筆者は、日本語といい加減な英語を交えて次の質問をぶつけた。

「ブリトさんがCEOを務めるABインベブは、M&Aを重ねて高い営業利益を確保してきました。ブリトさんとゴーンさんの経営手法の違いはなんですか」

 するとゴーン氏は次のように答えた。

「まったく違う、見ればわかるだろう。ルノー・日産アライアンスは、短期的な利益だけではなく、16年という長期にわたり成果を出してきた。M&Aには多くの手法がある。我々は、アライアンスを選んで成功した」 

 99年に日産に乗り込んだゴーン氏は工場閉鎖をしながら、並行して中国進出やEV(電気自動車)開発などを水面下で実行していった。リストラだけではなく、新しいチャレンジも進めたのだ。日産は現在EVの世界トップ。販売計画未達という批判はあるが、17年以降は世界の環境規制に絡むクレジットで収益を見込む。また、中国市場で年100万台以上を販売する唯一の日本メーカーでもある。

 ゴーン氏はアライアンスに関して、次のようにも語った。

「日産とルノーという違う文化により、特別な文化が生まれた。日産は自主性をもっていて、ルノーと日産とはずっと対等の関係にある。対等の精神に基づくパートナーシップを、両者がもてたことが成功した要因だ」

 ゴーン氏は経営危機の状況下では断固として固定費を削減させ、同時に取り組む事業として新しい価値を創出していった。

ABインベブ=投資会社

 一方、ブリト氏は買収した企業の人員削減や工場売却を断行していく。別の表現を使うなら“贅肉”を徹底して削いで、利益を高めていく手法だ。対等の関係といった考え方はなく、短期的に被買収企業をひたすら筋肉質にしていくのだ。

 ABインベブの営業利益率は33%(14年12月期)。トヨタの11.2%、ホンダの5.5%、日産の6.7%、スバルの17.8%(いずれも15年9月中間期)、そしてアサヒグループホールディングスの7.2%(14年12月期)をも大幅に超えている。新規事業や新市場開拓は、安定した財務力を背景に新たなM&Aにより進めていく。日産のように環境技術で世界をリードすることはないが、利益率は日産を大きく凌ぐ。

「サスティナビリティ(持続可能性)の本質は利益にある。企業は利益を上げて、株主に貢献し社会に還元する。だからブリトの手法は正しい」(米M&Aコンサルタント)
 
 つまりABインベブは事業会社というよりも、投資会社の性質に近い。海を泳ぐサメではないが、いつも動いていないと調子悪くなっていく。常にM&Aの新しいターゲットを狙っており、M&Aの継続が会社の評価につながる。だが、SABミラー買収により、ターゲットそのものは限定されてきている。そこで、日本のビール会社が残った案件のひとつとして浮上するだろう。

永井隆/ジャーナリスト

永井隆/ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒。東京タイムズ記者を経て、92年にフリージャーナリストとして独立。「サントリー対キリン」(日本経済新聞出版社)など著書多数。

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