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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

医師不足深刻化でも、大学医学部が定員増に必死の抵抗…「医師不足利権」の病理

文=上昌広/東京大学医科学研究所特任教授
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 例えば昨年、厚労省医系技官で健康局長を務めた矢島鉄也氏が、千葉県病院事業管理者に就任した。医師免許はあるものの、病院経営などやったことがない素人で、典型的な天下りである。天下り先が減った昨今、「役人にとって干天の慈雨」(元厚労官僚)ともいえるポストだ。

 なぜ、このような厚労省の振る舞いに医師たちは文句を言わないのだろうか。それは、このような流れは大学にとっても都合がいいからだ。

 医師不足の多くの地域で、実質的に医師を差配しているのは大学だ。地域医療支援センターは大学と無関係に運営できない。政府や県庁と連携することで、補助金のおこぼれにあずかることができる。

 例えば岩手医科大学の場合、総収入に占める補助金の比率は14.9%で、近年増加傾向だ。09年度の32億8700万円から、13年度には49億5200万円に増加した。いまや一流国立大学医学部なみの金額だ。

 財政難の日本で大学が受け取る運営費交付金や補助金は減っている。医師不足が問題となっていない東京の私立医大は、特にそうだ。14年度、日本医科大学が受け取った補助金は前年と比べ10億円減ったという。

 もちろん岩手医大の場合、震災の影響もある。しかしながら、それだけでは説明できない。その証拠に岩手県からの補助金は震災前の09年の7億7600万円から10年9億9600万円と増加している。震災後の12年には17億1600万円となった。岩手医大の経営にとり、医師不足ほどありがたいことはない。

「医学部新設は絶対に認めず」

 救急車のたらい回しが頻発しようが、入院できない患者がいくらいようが、厚労官僚や医学部教授にとって医師不足の現状がもっとも好ましい。何もしなくても金とポストを得ることができるからだ。できるだけ、医師不足の状況を維持したい。こうなると、彼らの敵は、医師が増えることだ。医師を増やそうとする動きには、一致団結して抵抗する。

 例えば08年、舛添要一厚労大臣(当時)が医学部定員を増やそうとしたときには、文科省医学教育課長に出向中だった医系技官は、東京大学などの医学部長に「医師はなるべく増やさない方向で頼みます」と電話し回った。

 この時は結局、舛添氏に押しきられ、その後の民主党政権もこの路線を踏襲したが、12年に自民党が政権に復帰以降、医学部定員増員を骨抜きにした。09年度には医学部定員が、693名も増員されたのに、14年度の増員はわずかに20名だ。08年当時、定員を5割増やすことが目標とされたが、結局2割の増員で打ち止めにした。

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