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江川紹子の「事件ウオッチ」第42回

元オウム菊地直子被告、逆転無罪判決 捜査当局の強引な起訴とメディアの誇大報道を検証

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 まず押さえておかなければならないのは、犯罪の疑いをかけられた者が逃げ隠れしても罪にはならない、ということだ。逮捕・勾留されている被疑者や服役している受刑囚の脱獄・脱走は処罰の対象になる。しかし、身柄を拘束される前に逃げたり隠れたりした場合の罰則規定はない。有罪判決の場合に、逃亡したことが悪い情状として働き、量刑に影響することはあっても、逃げ隠れしたこと自体が罰せられたりはしない。

 ただし、被疑者が逃げ隠れするのを助けた者は、罪に問われる。そのため、彼女が特別手配されている者と知って一緒に生活していた男性は、犯人隠避罪で有罪判決を受けた。これは、被疑者を捕まえて裁判にかけるという国家の刑事司法作用を妨害したことが罪とされるためで、菊地被告の無罪が確定したとしても男性の罪は変わらない。

 菊地被告は、薬品類を運んだ時点では、「何に使うのか知らなかった」と述べている。薬品の運搬を指示した中川智正死刑囚も、彼女には目的を告げていないと証言した。それでも、逃げている間に事件に関する報道を見聞きし、自分が運んだ薬品類で爆薬がつくられ、事件が起き、内海さんがひどい怪我をしたことを知った。当然、「罪の意識」は生じたろう。

 ただその時は、自分の運んだ薬品を使って人を殺傷する事件を起こす認識がなければ無罪になる、という法的知識は持っていなかったのではないか。たとえ使用目的についての認識がなくても、捕まれば処罰される、という意識で逃げていたのであれば、「逃げたこと=事件当時に認識があった」とはいえない。

 また、土谷正実死刑囚の下で、麻酔薬の密造など化学関係の仕事(教団では「ワーク」と呼んでいた)に従事していた彼女は、地下鉄サリン事件で特別手配されていたことから、自分が知らないうちにサリン製造にも関与していたのではないか、と思ったようである。加えて、菊地被告の場合、警察・検察・裁判所に対する強烈な不信感があり、自分の言うことなど信じてもらえないと思っていた。

 同居男性と出頭について話をしたことはあった。だが、そこには曲がりなりにも生活があり、それを断ち切って出頭するには、よほど強い意志が必要だったろう。出頭すべきだったというのは正論であるし、彼女にそれができなかった弱さを被害者が責めるのは至極もっともである。

 ただ法律は、人間がそういう弱さを持つ存在であるという前提でつくられているからこそ、刑法に「逃げ隠れ罪」を書き込まなかったのではないか。

判決の妥当性

 今回の判決の内容は、実にまっとうなものだと思う。

 この事件は、そもそも起訴自体がかなり無理筋だった。詳細は、起訴直後に書いた拙稿「オウム事件・菊地直子起訴 これでいいのか警察・検察」に書いた通りなのだが、ここでも簡単に経緯を記しておく。

 彼女は、2012年6月、地下鉄サリン事件についての殺人及び同未遂容疑で逮捕された。続いて猛毒のVXを使った殺人・同未遂事件で再逮捕。さらに、都庁小包爆弾事件で再々逮捕された。

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