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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

消費税軽減税率で社会的大混乱の懸念…不可能な「線引き」めぐり一部業界に悪影響も

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
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消費税軽減税率で社会的大混乱の懸念…不可能な「線引き」めぐり一部業界に悪影響もの画像1「12月12日谷垣幹事長会見での質疑応答」(「自民党 HP」より)

 12月12日、自民・公明両党が合意し、2017年4月の消費税率10%引き上げに向けて、導入を検討してきた軽減税率の枠組みの大枠が決まった。軽減税率の対象品目は「酒類および外食を除く食品全般」で、年間の減収額は約1兆円である。今回の決定は、以下の報道でも指摘があるが、いくつかの問題がある。ひとつは「対象品目の線引き問題」であり、そのほかは「財源確保の問題」などである。

<消費税の負担感を軽くする軽減税率制度の大枠が決まった。消費税率を10%に上げる2017年4月から外食を除く食品全般としたが、出前や飛行機の機内食など曖昧な点も残す。政府の想定より消費税収が年1兆円規模で減ることになる。財源の確保が難航すれば、財政健全化計画の見直しを迫られる可能性もある。

(略)ただ、対象品目の線引きは今後も火種となりそうだ。外食と加工食品の境界線は曖昧なものが多い。コンビニエンスストアのおでんは軽減税率になっても、屋台で食べるおでんは標準税率のままになる可能性がある。そばの出前や宅配のピザが軽減対象になるかも判然としていない。

 ハンバーガーチェーン、フレッシュネス(東京・中央)の幹部は「外食とイートインをどう切り分けていくのかが心配だ」と話す。今回の合意で外食店が10%、コンビニなどのイートインが8%となれば、外食産業の利用客がコンビニに流れる可能性もある。

(略)税法などで線引きの定義をつくれても、欧州では適用範囲を巡る訴訟が後を絶たない。財務省内にも「外食を外せば、曖昧な線引きを巡って野党の追及にさらされる」との声が漏れる。年明けの通常国会に軽減税率を含む税法の改正案が出されるが、国会の審議が紛糾する可能性がある>(12月13日付日本経済新聞記事『軽減税率、品目・財源で曖昧さ残す 国会審議紛糾も』より)

 このうち、「対象品目の線引き問題」は、16年1月4日に召集が決まっている国会審議で紛糾する可能性が高い。理由は単純で、上記記事の通り「外食と加工食品の境界線は曖昧なものが多い」ためである。

 このような線引きの曖昧さを回避するため、現在のところ、自民・公明両党は食品衛生法で線引きを検討中との報道があるように、当然、一定の基準を導入する試みも考えられるが、海外では説明に窮する線引きも多い。たとえばカナダでは、購入するドーナツの個数が5個以下の場合は「外食」とみなして標準税率(例:10%)が適用される一方、6個以上では軽減税率(例:8%)が適用されるが、なぜ5個という基準で線引きするのか、論理的に説明することは不可能に近い。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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