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片山修「ずたぶくろ経営論」

奇跡づくしで常識破壊、ホンダジェットが離陸…利益ゼロで30年間開発続行の死闘

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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 ホンダエアクラフト社を立ち上げた直後、藤野氏らは、空港の脇にあるハンガー(格納庫)の中に簡易な設計室をつくり、バラックのようなところで飛行機をつくっていた。そのようなところで採用面接したところで、優秀な人材が現在の安定したいい仕事を捨ててまで、ホンダの先の見えない航空機事業に転職する気には、なかなかなってくれなかっただろう。

「彼らに入社を決心してもらうためには、最初のうちはホンダジェットの実機を見てもらい、その飛行機の技術や魅力を自らアピールすることが必要でした。そして投資を少しずつ進めながら、先端の研究設備や工場、フライトシミュレーターなど、エンジニア達が我々の仕事自体にやりがいを感じるような会社の体制や設備を整えていきました。会社のコアは、人材です。そして、いろいろな観点から会社全体に魅力を感じてもらうことが、優秀な人材を集める上での最も重要なステップになると考えていたのです」

 アメリカという航空大国で、ホンダが、未知の航空機産業に参入するには、数え切れないほどの多くの障壁があった。そして優秀な人材の確保という課題は、その一つだったのだ。

常識からいってあり得ない話

 デリバリーセンターでは、ターンテーブルに載せられたブルーの「ホンダジェット」を、改めて間近で眺めることができた。思わず、「美しいですね」と言うと、「ありがとうございます」と、藤野氏は、まるで自分のことを褒められたようなうれしそうな表情をみせた。

「ホンダジェット」の美しさには、いくつかの秘密がある。その一部を紹介してみよう。まず、なんといっても、主翼が美しい。「ホンダジェット」の外形の最大の特徴は、エンジンを主翼上に配置したところにあるのだが、その主翼の表面は、高級車のボンネットのように滑らかで、光沢があるのだ。一般的なビジネス・ジェットは、こうはいかない。主翼が光を受けると、たいてい凹凸によって反射光が乱れるからだ。触れば凹凸が感じられるし、リベットがたくさん打ちこまれているのが一般的である。私は、オハイオ州の「ホンダ・ヘリテイジ・センター・ミュージアム」に展示されているホンダジェットの胴体の表面も撫でてみたことがある。胴体も実に滑らかだった。なぜ、これほどまでに滑らかなのか。

「空気抵抗を少なくするために、表面はできるだけ滑らかなほうがいいんです。主翼のスキンは大きくて長いアルミの板から、NCマシン(数値制御工作機械)で一体で削り出しています」

 私は、この言葉を、信じられない思いで聞いた。ホンダジェットの主翼は、片側約5メートルだ。それほどの大きさのものを削り出すとなれば、どれほどのコストや時間がかかるのか。車体をプレスで生産するのが一般的な自動車からすれば、耳を疑うような話である。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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