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江川紹子の「事件ウオッチ」第44回

【慰安婦問題で日韓合意】 “不可逆的な解決”のために必要なことは

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 しかし、79年には女子差別撤廃条約が国連総会で採択され、国際社会の中で80年代に女性の人権に対する関心が急速に高まっていった。そして91年に韓国で、92年にフィリピンで、元慰安婦が名乗り出た。日本を相手にする裁判も始まる。さらに、92年には旧ユーゴスラビアの紛争で、「民族浄化」の名の下に虐殺が行われ、多くの女性がレイプされたことが明らかになり、大きな衝撃を与えるとともに「戦時下の女性の人権」が国際社会の大きな関心事となった。そんな中で、日本の過去の慰安婦問題も「戦時下の女性の人権」という観点から光が当てられることになった。

 今の価値観で過去の問題を判断することはおかしいのではないか、という意見もある。確かに、法的な問題については「法の不遡及」という原則があり、実行時に適法だった行為を後からできた法律で罰することはできない。しかし、人道的な問題に関しては、かつての人権意識が低い頃に先人達がなした行為を、後から振り返って問題だとわかった場合、それを反省したり謝罪することはためらうべきではないだろう。

 これまでも、たとえば父ブッシュ大統領は戦時中の日系人の強制収容を謝罪したし、クリントン大統領はハワイ併合の際に米政府が王朝崩壊に関与したとして謝罪。米下院は、奴隷制度に謝罪する決議を採択している。オーストラリアでも、ラッド首相が先住民アボリジニへの隔離政策を謝罪した。また、スペインやポルトガルが中南米を征服し、非人道的な搾取を行ったことについて、ローマ・カトリック教会の布教活動が大きなかかわりがあったとして、法王ヨハネ・パウロ2世がドミニカ共和国で、現在のフランシスコ法王がボリビアで、謝罪を行った。

 また、過去に軍隊が女性を性的に搾取したのは日本だけではない、という言い分もある。その通りだ。韓国では米軍に対して性の提供をさせられた女性たちがいるし、ベトナム戦争の際には韓国軍の兵士が現地の女性をレイプした問題もある。だからこそ、日本が誠実に謝罪と償いを実行すれば、そうした他国が関与した被害者たちの救済の道を切り拓くこともできる。日本は、元慰安婦たちへの誠意と共に、過去における「戦時下の女性の人権」を回復するという大きな課題のトップランナーであるという気概を持って、この合意が完全に実現されるよう努力していきたいものである。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』『家族の愛犬から地域へ── もか吉、ボランティア犬になる』ほか。『「歴史認識」とは何か – 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。
江川紹子ジャーナル www.egawashoko.com、twitter:amneris84、Facebook:shokoeg

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