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田中洋「マーケティングのキーインサイト」

スタバやナイキ、なぜあえてブランド名を「隠す」?自社を否定し成長する卓越戦略

文=田中洋/中央大学ビジネススクール教授

3番目のデ・ブランディング

 デ・ブランディング戦略は、実は上記の例だけにとどまりません。それは、親ブランドを戦略的に「隠す」戦略です。
 
 トヨタ自動車は「レクサス」を発売しています。このケースは、米カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクール名誉教授・デビッド・アーカー氏の用語を借りれば「シャドー・ブランディング」と呼ばれたりもします。つまり、レクサスは独立したブランドでありながら、トヨタというビッグブランドを背景にもっており、トヨタがレクサスを「陰ながら」支えている、という構図になります。

 こうしたシャドー・ブランディングも含めて、デ・ブランディング戦略を考えてみたいです。前述したコカ・コーラ、ナイキ、スターバックスのケースは、ブランドをまったく隠してしまうわけではなくて、ブランドの露出の仕方を変更した事例です。

 しかし、レクサスの例は、ある意味で「積極的に」親ブランドを隠しています。もちろんレクサスがトヨタのブランドであることは、大半の人が知っており、そのブランドを保有する企業の存在があるからこそ、レクサスはいっそう素晴らしいブランドであるわけです。こうしたより戦略的なデ・ブランディング戦略に、今後は注目する必要があります。

 その理由は、ブランドや企業のM&A(合併・買収)が盛んになるにつれて、ブランドは親ブランドとは無関係に売買され、新しいオーナーのもとに育成されるケースが多くなっているからです(レクサスの事例はM&Aによるものではありません)。

 たとえば、カネボウは花王のブランドであり、ボルボ(乗用車)はかつての米フォードの保有を経て現在は中国・吉利汽車の保有であり、ジャガーとランドローバーは同じくフォードを経て、現在はインド財閥系のタタグループに属しています。スポーツ飲料・エナジードリンクのルコゼードはもともと英グラクソ・スミスクラインの保有でしたが、現在はサントリー食品インターナショナルが保有しています(日本未発売)。ネスレのキットカットはもともと英ロントリーという企業のブランドでした。
 
 これらの事例にみられるように、個別ブランドは親ブランドとは切り離されて、親ブランドを隠す(あるいは、積極的には明らかにしない)という意味でのデ・ブランディングを行わなくてはいけない状況が増えています。そこにおいて、シャドー・ブランディング、つまり親ブランドをそこはかとなく示すやり方、あるいはまったく隠してしまう戦略の2つが選択肢としてあります。

 デ・ブランディングは今後、多くの企業が取らなくてはならない戦略として、検討しなければいけない課題になってきたといえます。
(文=田中洋/中央大学ビジネススクール教授)

【参照文献】

Debranding: why Coca-Cola’s decision to drop its name worked
The Guardian 2013/Aug/6
‘Share a Coke’ Credited With a Pop in Sales
Marketing Campaign That Put First Names on Bottles Reversed Downward Slide Sept. 25, 2014
The Share a Coke story
#ShareaCoke Marriage Proposal Goes Viral

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

田中洋/中央大学ビジネススクール教授

京都大学博士(経済学)
日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。
1975~1996 21年間、㈱電通勤務。
1996~1998 城西大学経済学部助教授
1998~2008 法政大学経営学部教授
2003・4年度コロンビア大学ビジネススクール客員研究員
2008~2022 中央大学ビジネススクール教授
2022~ 中央大学名誉教授
元・東証一部上場・ソウルドアウト株式会社社外取締役
関心領域:マーケティング論・ブランド論・広告論
田中洋 中央大学ビジネススクール教授のオフィシャルサイト

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