太洋社は、トーハンと日販が生き残るための草刈り場となってしまったのだ。2大巨頭といえども、縮小する出版市場のなかでは売り上げがどんどん下がってしまう。それを補填するには、書籍や雑誌を送品する先である書店を増やすしかない。つまり、大手書店チェーンが、既存店の売上高が毎年前年割れを続けているので、新規出店しない限り売り上げは増えないという構図と、同じなのである。
しかし、書店側も新規に出店する余裕もなくなってきているなかで、取次が手っ取り早く取引先書店を増やすのは帳合変更が一番。その絶好の狩り場となったのが、太洋社だった。
取次にとって帳合書店は生命線である。この取次を通してしか、出版社は有名書店に商品を入れることはできない。だからこそ出版社は取次と取引をするのだ。老舗や大手書店は別として、1書店1取次が基本だからでもある。よって、トーハンや日販に優良顧客を奪われていった後の太洋社には、出版社もどんどん魅力を感じなくなっていった。
ある老舗出版社の幹部は語る。
「取引書店の減少と共に太洋社への商品搬入数は落ちて、毎月の入金額もどんどん減っていた。太洋社は優良書店がどんどん減ってしまって、出版社から見ると取引する価値が減ってしまった」
囁かれていたXデー
こうした帳合変更を背景に、出版業界では太洋社の破綻が噂されるようになった。2011年からは営業損失を計上し続け、昨年には前述の通り栗田が民事再生を申請した。太洋社の破綻へのカウントダウンは、栗田の民事再生申請と同時にスタートしたのかもしれない。ある出版社の社長は言う。
「栗田の民事再生申請と同時に、太洋社への出荷を止めた出版社があると聞いた。当時は『それはいくらなんでも乱暴だろう』と思ったが、余波が太洋社に向かっていったのも事実だろう」
別の出版社の取締役も語る。
「栗田のような民事再生申請は、太洋社には無理だろうといわれていた。大阪屋や栗田を救った大手出版社が、太洋社の再建にはかかわっていない様子だったからだ。日販に送返品の物流業務を委託した頃から、太洋社も長くないという話が頻繁に出て、同時に売り上げが減っていく中、新刊配本を減数したりするなど出荷を絞っている出版社も出始めた」
また、ある出版社の営業担当者は言う。