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木村隆志「現代放送のミカタ」

天才外科医が患者を救う…似たような医療ドラマが乱発される、信じがたい理由とは?

文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト
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天才外科医が患者を救う…似たような医療ドラマが乱発される、信じがたい理由とは?の画像1「Thinkstock」より

 この1年だけで、『無痛~診える眼~』(フジテレビ系)、『コウノドリ 命についてのすべてのこと』(TBS系)、『破裂』(NHK)、『DOCTORS3 最強の名医』(テレビ朝日系)、『まっしろ』(TBS系)、そして現在も『フラジャイル』(フジテレビ系)と、多くの医療ドラマが放送されている。

 21世紀に入ってから、『白い巨塔』(フジテレビ系)、『救命病棟24時』(同)、『Dr.コトー診療所』(同)、『ブラックジャックによろしく』(TBS系)、『チーム・バチスタの栄光』(フジテレビ系)、『医龍-Team Medical Dragon-』(同)、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)など、数々の名作が誕生していたが、このところ、ますます増えているのはなぜだろうか?

 その理由は、「ドラマ界の現状」「制作上の都合」「テレビ局の事情」の3点にあると推察される。やむを得ないものから、テレビ局員の抱える不安まで、その内容は思っている以上に重層的だ。

もう刑事・事件ドラマにはウンザリ?

 ひとつ目の理由は、「ドラマ界の現状」だ。『相棒』シリーズ(テレビ朝日系)の記録的ロングヒットによって、各局ともに刑事・事件ドラマが増えた。特にここ数年は、刑事・事件ドラマが全体の半数を超えるクールもあるなど、明らかに供給過多の状態だ。そのため、視聴者は人が殺されるシーンや狂気の犯人にすっかり慣れてしまい、さしたる衝撃を感じなくなってしまった。

 だからこその医療ドラマである。「人の命が奪われる」刑事・事件ドラマが毎日放送される中、「人の命を救う」医療モノは、感動とカタルシスが際立つ。「死んでしまうかもしれない」という状況から患者を救う主人公は、ただただカッコよく、ヒーロー性が高い。

 さらに、たとえば主人公が外科医の場合、麻酔科医、内科医、看護師などとチームを組む筋書きの作品も多く、「人の絆を描きやすい」というメリットもある。つまり、スーパーヒーローモノとチームモノの魅力を両立しやすいのが医療ドラマなのだ。

医療モノはキャスティングが“便利な”ドラマ?

 2つ目の理由は、「制作上の都合」だ。医療ドラマは、小説や漫画を原作にしたものが大半で、すでに名作としての評価や販売実績を得ているものも多い。これは一般層に受け入れられていることの証拠であり、少なくともドラマ化にあたって拒絶反応を示される心配はない。

 また、すでに原作者が取材を重ねて書いたことが、事実上の第一次監修になるため、リスクヘッジとしても機能している。たとえば、ドラマの内容に医療団体などから抗議があったとしても、制作サイドは「原作では問題なかった上に、ドラマ化に際して、関係者への取材や専門家の監修を重ねた」という釈明が成立しやすいのだ。

 さらに、制作サイドにとっては、キャスティングのしやすさも魅力のひとつだ。主人公の医師役は20~50代まで幅広い年齢層の俳優を設定しやすく、それは同僚医師役やライバル医師役も同じ。研修医役や看護師役に10~20代の若手俳優を抜擢したり、患者役に60~80代のベテラン名優を起用したり……さらに男女の区別を問わない。若手からベテランまで、全世代の男女を起用するバランスのいいキャスティングが可能なのだ。

 これらの事情から、医療ドラマは制作サイドにとって企画実現の可能性が高いジャンルといえる。

テレビ業界の不健康さが医療ドラマを増やしている?

 3つ目の理由は、「テレビ局の事情」だ。昨今のテレビ業界を取り巻く問題として、視聴者の高齢化が避けられない。特にテレビ局が必要とするのは、視聴率を担う“リアルタイム視聴者”であり、その多くが中高年層とされている。

 そのため、ドラマ以外の情報番組やバラエティ番組は、中高年層に人気のコンテンツが多い。特に多いテーマは「食」と「健康」の2つで、その波はドラマにも押し寄せている。その点、医療ドラマは確実に中高年層を取り込める上、最近は健康ブームや芸能人の病気が大きなニュースになるなど、若年層の関心も高まっている影響で、さらにターゲットが広がっている。

 テレビ局としては、「ドラマ視聴の中心である中高年層を抑えつつ、これだけターゲットが広いテーマは、医療しかない」というのが本音。そのため、医療ドラマはテレビ局内の企画会議が通りやすいのだ。

 そして、ここからがポイント。ドラマ化への強い影響力や決定権を持つテレビ局の上層部は、医療ドラマが大好きである。自身が健康不安のある中高年であり、「大病を患い、早逝しやすい業界」という自覚が強く、実際にそういう局員を見てきただけに、医療ドラマは「自分自身が観たい」「最もゴーサインを出したくなる」という心理が働くようだ。

超“安全策”の医療ドラマ

 中高年なのは、影響力や決定権を持つ上層部だけではなく、制作スタッフも同じだ。ドラマの根幹を担うプロデューサー、演出家、脚本家の多くはアラフィフ世代であり、20~30代は少なく、明らかに高齢化が進んでいる。「自分たちも関心のあるテーマである上に、一定の視聴率が期待できる。だから、医療ドラマという“安全策”に走ってしまう」という側面は間違いなくあるだろう。

 その証拠に、業界では異例の20代プロデューサー・福井雄太氏は、養護施設の描写で物議を醸した『明日、ママがいない』(日本テレビ系)、当時は無名の広瀬すずを抜擢した『学校のカイダン』(同)を手がけるなど、“安全策”の医療ドラマとは真逆の挑戦的な作品を手がけている。つくり手が若ければ、医療ドラマがこれほど増えることはないのだ。

 嘘のような話だが、私自身、民放各局の制作スタッフから、このような話を何度も聞いてきた。健康を求める社会的背景や個人の不安があり、ターゲットが幅広いため大コケしにくいなど、医療ドラマには「この企画はやめたほうがいい」と反対される理由がほとんどない。

 しかし、現在放送中の『フラジャイル』が、これまで扱われなかった病理医の世界を描いているように、各局とも差別化が難しくなってきている。また、医療小説や医療漫画も有限であることから、今後は時間をかけてでも、オリジナルの医療ドラマをつくる姿勢が求められるだろう。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

木村隆志/テレビ・ドラマ解説者/コラムニスト

木村隆志/テレビ・ドラマ解説者/コラムニスト

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

Twitter:@takashi_kimura

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