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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

安易なアパート建設・経営、人生を不幸にする危険…安定した賃貸困難、多額借金抱える

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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 土地と建物を合計した相続税評価額は1億300万円(8200万円+2100万円)だ。アパートの建設費7000万円を全額借入金で調達すれば、この評価額から借入金を差し引くことが可能となるので、アパート建設による相続税評価額は3300万円まで圧縮できるというわけだ。

 さて、法定相続人が3人だとすると、相続税評価額の基礎控除額は4800万円(3000万円+600万円×3人)となるので、相続税を支払う必要はなくなる。更地のままほうっておけば、1億円から基礎控除額を差し引いた5200万円相当額に相続税が課税されたはず。これがアパート建設による節税のカラクリである。

貸家供給市場は成長しないという現実

 貸家が増加するもうひとつの要因が、マイナス金利に象徴される金融緩和だ。金融機関は「緩みきった」金融環境のなかで、貸し手を探してさまよっている。そこで目を付けたのがアパートローンである。土地を担保にアパート建設会社と提携して、相続税が心配な土地所有者に積極的にアパートローンを薦めている。

 不安を抱える土地所有者にアドバイスをするのが税理士である。税理士のなかにはこうした節税対策を指南することで、コンサルティング収入がアップするし、なかには別会社形態で業者からバックマージンを受け取っているケースもあると聞く。

 もちろん、こうした対策は土地所有者にとっては「良策」とも思えるが、事はそう簡単ではない。冒頭に記したように、国全体で人口減少が本格化しているなかで、アパートを中心とした貸家供給が、どんどん成長していくマーケット環境でないことは誰の目から見ても明らかだからだ。

 人口の減少は全体像だけを見ていても不十分だ。実は人口減少が深刻であるのは、総人口の減少というよりも、働き手の減少といわれる、15歳から64歳までの「生産年齢人口」の落ち込みだ。この数は、総人口よりも減少スピードは速く、1995年の8726万人をピークにすでに減少に転じており、2014年には7785万人。20年ほどの間でなんと11%も減少しているのだ。

 増加する一方の高齢者は、アパートの賃借人としてはあまり歓迎される対象ではない。高齢者でアパート住まいの人は、経済的条件が芳しくない先が多く、賃料を引き上げる余地のある賃借人はごく限られる。室内での孤独死も心配だ。賃料をしっかり納めることができる生産年齢人口の激減は、アパート運営にとって暗い影を投げかけているのだ。

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