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金森努「マーケで斬る」

百貨店、本格的崩壊期へ…高齢者以外は来ず、看板外しただのテナントビル化

金森努/金森マーケティング事務所取締役、マーケティングコンサルタント
百貨店、本格的崩壊期へ…高齢者以外は来ず、看板外しただのテナントビル化の画像1「Thinkstock」より

 世の中の動きや新商品の狙い、ヒット商品が売れるワケなどを「マーケティング」を切り口として考えてみようという連載を今回から始めたい。まずは百貨店の未来についてだ。

百貨店は小康状態

 3月18日に日本百貨店協会が発表したニュースリリースでは、「2月は温暖な気候と、閏年による営業日一日増などを要因に客足が好調に推移。降水量の多さを払拭して0.2%増と2か月ぶりにプラスを記録した」と、百貨店業界が小康状態を示している様子が伝えられたが、マクロで見れば大変厳しいといわざるを得ない。もっと踏み込んでいうなら、「このままでは未来がない」という状況だ。

百貨店は誰のためのものなのか

 古くはバブル経済でこの世の春を謳歌した百貨店は、バブル崩壊以降、ターゲット顧客を可処分所得が高い層に集中して生き残りを図ってきた。

 その際たる例が、東京の京王百貨店新宿店だろう。2004年11月に創業40周年を迎えたのを機に同店は、高齢社会に対応した改装や売場づくりを打ち出し、5・7・8階の3フロアを高齢社会や中高年層の生活感変化などに対応した売り場に改装。商品構成を変更し、フロア構成も見直すことで従来中高年顧客を主要ターゲットとしてきたポジショニングを一段と進化させ、競合環境のなかでひときわ目立つ存在となった。

 京王百貨店に限らず、多くの百貨店では高齢者層を狙い居心地のいい、滞留時間の長い店舗をつくろうと、店内の至る所に休憩用の椅子が配されるようになった。

高齢者で稼いできたツケが廻ってきた

 しかし、高齢者狙いだけでは生涯価値(同一顧客が連続的に購入することにより得られる利益)が残り少ない顧客と心中することになる。

 行き過ぎた高齢者対策が原因で、ひとつの都心郊外百貨店が歴史の幕を閉じようとしている。そごう柏店である。2000年頃から近隣に親子3代で楽しめるショッピングセンターの出店が相次ぎ、同店は対策を打っていた。

「そごう柏店はシニア層にターゲットを絞った品ぞろえやサービスに力を注いできた。2012年には百貨店内にカルチャーセンターを誘致し、俳句や短歌、音楽やダンスの講座を開くなど、シニア客の流入を図った。(略)結果としては、シニア層以外の施策が乏しく、(略)2016年2月期の売上高は115億円と、ピーク時の2割程度にまで落ち込んでしまった」(3月13日付「東洋経済オンライン」より)

 今や、高齢者以外の顧客は百貨店に来ず、家族がお祖父ちゃん・お祖母ちゃんを伴ってショッピングセンターに行ってしまうのだ。そごう柏店も閉店後は16年4月に開業する予定のショッピングセンター「セブンパーク アリオ柏」に小型店として出店するという報道もある(3月8日「都市商業研究所」報道より)。

ショッピングセンターのテナント化

 ショッピングセンターへの小型店出店はそごうだけではない。高島屋は昨年10月に三井ショッピングパークららぽーと海老名に、化粧品・婦人雑貨・ライフスタイル雑貨・カフェなどを併設した新業態店「タカシマヤスタイルメゾン」を開業した。狙いは、「ショッピングセンターを訪れる“百貨店初心者”のファミリー層を取り込む事」(2015年12月13日付日経MJ記事より)だという。

 そう、長く百貨店は「手っ取り早く稼げるシニア」に力を入れすぎて、本来の主力顧客となり得る層を遠ざけてしまっていたのだ。同店は主要顧客として意識するのが30~40歳女性だ。「まずは足を踏み入れたいという雰囲気づくりにこだわった」(同)という。もはや百貨店での買い物の仕方や“お作法”から慣れてもらわねばならないほど、ターゲットと百貨店の間には距離ができていたのである。

小型店に分裂

 
 小型店を展開するのは郊外のショッピングセンターだけではない。3月9日にJR名古屋駅前に誕生した大名古屋ビルヂングの地下1階から地上2階のフロアに三越伊勢丹ホールディングスは「イセタンハウス」を出店し、流行に敏感な主婦層やビジネスパーソンに対応した商品を取りそろえるという。同社は小型店展開に力点を置いており、すでにショッピングセンターで雑貨・食品を中心に「エムアイプラザ」、ルミネなどの駅ビルに、化粧品に特化した「イセタン ミラー」、東京六本木に婦人向け・丸の内に紳士向け高感度ファッション層ターゲットの「イセタンサローネ」などを計100店出店しているという。専門性を高めてターゲットを絞り小型店展開を加速していくのは、ひとつの潮流だとみて間違いないだろう。

消えていく「百貨店」という「館」

 では、「百貨店」という「館」はどうなっていくのか。大丸・松坂屋の百貨店を運営するJ.フロント リテイリングは「マルチリテーラー戦略」を掲げている。

「パルコやプラザをグループしたうえで、キャラクターグッズ専門店やファストファッションなどの業態の異なる流通業者を入店させる戦略」(15年6月10日付日本経済新聞より)

 その一環で名古屋店にはヨドバシカメラを誘致している。また、現在建て替え中の松坂屋銀座店跡は、「マルチリテーラー戦略」に加えてインバウンド需要を極端に強化しているようで、現在銀座通りに路上駐車しているアジアを中心とした観光客のバスを、丸ごと館内に飲み込めるように建物地下にバスターミナルを完備設計するようになっているという。また、「『松坂屋』の看板がつかない商業施設とする」(同)というから驚きだ。

 松坂屋の展開は少々極端かもしれない。しかし、小型店に分裂化してテナントと化す方向性は今後、さまざまな形態を実験的に行いながらも加速するだろう。また、松坂屋のようにテナントビル化して看板を外すような店舗も増えてくるだろう。

 百貨店業界の蹉跌は、「バブル崩壊」というマクロ環境の大きな変化に対して、「ターゲット顧客は誰なのか」という再定義をきちんとせず、「お金を落としてくれる人がお客様」とでもいうように、可処分所得の高い高齢者を中心顧客に置いてしまったことに始まる。その結果、百貨店という業態自体が旧態依然としたポジショニングになり、若年~中年までの新規顧客層には魅力的に映らず、むしろ遠ざける結果となってしまった。さらにショッピングセンターなど業際を越えた新たな競合が勃興し、中心顧客すらも奪われるようになった。

 あとは、そのショッピングセンターなどの商業施設に百貨店としての売り場を分解して入店するか、自らが「箱」として集客力のあるテナントを迎え入れるという姿になっていこうとしているのである。

 どこか昭和な香りを残す「百貨店らしい百貨店」は、中高年の記憶の中だけにしか存在しなくなるのだろう。
(文=金森努/金森マーケティング事務所取締役、マーケティングコンサルタント)

金森努/金森マーケティング事務所取締役

金森努/金森マーケティング事務所取締役

有限会社金森マーケティング事務所取締役・マーケティングコンサルタント。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略)、青山学院大学経済学部非常勤講師(ベンチャービジネスとマーケティング)兼務。東洋大学経営法学科卒。大学でマーケティングに触れ、大手コールセンターに入社。顧客の「顧客の生の声」から、「この人はナゼ、こんなコトを聞いてくるんだろう」「ナゼ、こんなモノを買うんだろう」など、消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングの世界に踏み込む。その後、コンサルティング会社や広告代理店を経て、2005年に独立。マーケティング一筋四半世紀以上を過ごす。新商品の上市計画や売れない商品の復活プラン策定などを得意とする。コンサルの現場・教育・執筆では、一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

●著書
『図解 よくわかるこれからのマーケティング』(同文舘出版)
『“いま”をつかむマーケティング』(アニモ出版)
●共著書
『ポーター×コトラー 仕事現場で使えるマーケティングの実践法が2.5時間でわかる本』(TAC出版) 等

有限会社金森マーケティング事務所ホームページ

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