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一袋数十円の特売品モヤシで35年間黒字を続ける凄い企画力…常識破壊の中小企業

文=井上久男/ジャーナリスト
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一袋数十円の特売品モヤシで35年間黒字を続ける凄い企画力…常識破壊の中小企業の画像1国内初のオーガニックモヤシの発表をするサラダコスモの中田智洋社長

 スーパーの特売品になることもあり一袋数十円で売られる「物価の優等生」モヤシを主力商品として、35年間も黒字経営を続けてきた中小企業がある。岐阜県中津川市に本社を置くサラダコスモだ。クリーンな設備を有する最新工場で、水耕栽培によって無農薬・無化学肥料でモヤシや「スプラウト」と呼ばれるブロッコリーの芽などの発芽野菜を大量生産し、大消費地に届けるビジネスを展開している。

 一見、単純そうに見える商売だが、その背後には凄まじい企業努力が隠されている。同社の動きを見ていると、デフレで物価が下がったので利益が出なくなったという泣き言は、経営者の言い訳にすぎないと感じる。

 サラダコスモは3月24日、日本で初めて有機JAS(日本農林規格)に適合した有機栽培のモヤシを4月から発売すると発表した。付加価値が付くことで一袋の価格はこれまでのモヤシの2倍程度になって、緑豆モヤシで60円前後、大豆モヤシで80円前後となる見通し。

 先進国のなかで日本の消費者は有機栽培への関心が低いといわれるが、2020年に開催される東京五輪では、選手村の食事など、訪日する外国人が安全な食材を求めているため、有機栽培野菜の市場が拡大するとみられている。サラダコスモはそこに目を付けた。

 すでに同社は、緑豆は中国、大豆は米国でそれぞれ契約農家により有機栽培されたものを使用しているが、これまでJASは水耕栽培を有機栽培の対象外としてきたため、いくら無農薬・無化学肥料でモヤシを栽培しても有機栽培と謳うことができなかった。ところが、昨年12月の規格改正によって、水耕栽培でも求められる基準に適応していれば、有機栽培と認定されるようになった。サラダコスモはこの動きをすかさず捉えて動いたというわけだ。

 昨年10月にはイソフラボンが含まれた大豆モヤシを生鮮食品としては国内で初めて機能性表示食品として売り出し、「骨の健康が気になる方に」と袋に書いた。これも食品表示の規制緩和の動きを俊敏に捉えての対応だ。生鮮食品で機能性表示が認められたのは、この大豆モヤシと「静岡三ケ日みかん」だけだった。大豆モヤシは生産が追い付かないほど売れ行きが好調だという。

 中田智洋社長(65)は「野菜づくりでも新しい商品やサービスを売り出すための企画力が大切」が持論。そして、「ドイツは食の安全の意識が高く、見習うべき。いずれ日本の消費者も有機栽培への関心が高まる」と時代の先行きを読む。

ラムネ屋からモヤシ屋に「変身」

 サラダコスモは、実は清涼飲料水のラムネを売る「中田商店」という店だった。販売が落ちる冬の副業でモヤシの生産販売をしていた。しかし、本業のラムネ店はコカ・コーラなどに押されて廃業せざるを得なくなり、1978年に父から家業を引き継いだ中田氏は80年、モヤシに特化することを決断した。

 当時のモヤシは漂白剤で真っ白にして売るのが業界の「常識」だった。中田氏は「こんなものをお客さんに食べさせてはいけない」と考え、国内初の無添加・無漂白のモヤシづくりに取り組んだ。当初は無漂白だとモヤシがすぐに茶色になるため、消費者からクレームを受けたそうだ。しかし、こうした取り組みがまず生活協同組合で評価され、それが大手スーパーにも伝播し、80年代前半からブレイクした。今では「常識」となった無漂白・無添加のモヤシをサラダコスモが確立させたのである。

 その後、カイワレ大根など生産品目を増やして事業規模を拡大させた。欧州では高級野菜として人気がある「チコリ」の栽培も2006年から日本で初めて取り組み、発芽した部分を野菜として売り、元の部分の芋は焼酎にしたり、焙煎してお茶やコーヒーにしたりして販売する。

 野菜生産と加工・販売にまで取り組む、いわゆる「6次化」にも熱心だ。チコリ生産を契機に、本社横に「ちこり村」を開設、生産現場を見せながら自社製品や地元産のお土産を売り、地元の食材をふんだんに使った料理を出すレストランも併設、年間30万人の観光客が立ち寄る名所となった。ちこり村だけで年間9億円を稼ぎ、レストランでは多くの地元の人を雇い、新たな雇用を創出している。

 こうして企画力を重視したビジネスを展開しながら、地道に効率的な物流網も構築している。モヤシなどの工場は、長野県、栃木県、兵庫県内にあるが、その日出荷した新鮮なものが大都市の売り場に並ぶ。卸売市場を経由せずに工場からの直送だ。仲介者がいないため、安いモヤシでも利益が出る。大量発注と無駄のないルート確立によってモヤシ5キログラムが入った段ボール箱1個を120円で全国に配送できる仕組みを構築している。モヤシの商圏は半径30キロメートルといわれていたのを300キロメートルにまで拡大させ、業界の「常識」をサラダコスモが覆した。

 同社の15年5月期の売上高は前期比13.7%増の83億円、経常利益率も2桁台を維持している。16年5月期は大台の100億円の売上高も視野に入っている。従業員はパートも含めて450人。若い優秀な人材を積極採用している。「中津川市で最も賃金の高い会社」ともいわれ、大卒35歳で年収600万円程度だ。

元祖野菜工場

 ここ数年間で大企業が「植物工場」に進出して世間の注目を浴びたが、サラダコスモの場合、約30年前から室温や水、安全管理面で近代的な設備が整った工場で野菜を生産していることから「元祖野菜工場」とも呼ばれる。こうしたノウハウが世界からも注目され、中田氏はジュネーブにある「国連貿易開発会議(UNCTAD)」に呼ばれ、「気候変動の影響を受けない野菜工場は世界の食糧危機を救う」と演説したこともある。

 中田氏は常に時代の先を読み、リスクを楽しみながら会社を大きくしてきた。中小企業のオーナーというよりもアントレプレナー(起業家)に見える。働いていてワクワク感のある会社だからこそ、地方の中小企業でありながら若い人材が面白がって集まってくるのだろう。

 中田氏は今、自社と地域社会の発展を重ねて見ており、社会的存在としての企業はどうあるべきかを強く意識している。11年後にリニア新幹線が開通して、中津川市に駅ができる予定だ。東京まで50分になる。そうなった時、どんな町にしたいか、住民一人ひとりが頭の中に描いておかないと、その恩恵は受けられないと中田氏は考えている。ポケットマネーを出して講師を呼び、地域の経営者や市民を集めて街づくりの将来像を学び合う講演会を開いている。そこに多くの人が集まり、多くのご縁ができてビジネスにつながるケースもある。本来ならば行政が行うようなことを、企業経営者が実践しているのだ。

 地方創生が叫ばれるが、その実態は補助金頼みだったり、コンサルタント任せであったりする。しかし、本当の地方創生とは、その地域に住む人たちが自ら考え、自ら行動を起こし、自助努力によって成し遂げられるものである。サラダコスモのさまざまな取り組みは、地方創生はどうあるべきかを考えていくうえでも大いに参考になるのではないか。
(文=井上久男/ジャーナリスト)

井上久男/ジャーナリスト

井上久男/ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年、朝日新聞を退社し、2005年、大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在はフリーの経済ジャーナリストとして自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。 主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。

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