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船橋オートレースを「殺した」のは誰がか?千葉県と船橋市が自らとどめを刺した愚行

文=小川隆行/フリー編集者
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船橋オートレースを「殺した」のは誰がか?千葉県と船橋市が自らとどめを刺した愚行の画像1在りし日の船橋オートレース場全景(「Wikipedia」より/Triumph)

 4月11日付当サイト記事『船橋オートレースを「殺した」千葉県と船橋市の怠慢…森田健作知事に帰れコール』で、3月21日に最終日を迎えた船橋オートレース場廃止の経緯および公営競技の衰退についてお伝えした。今回は、さらに船橋オート廃止の背景について深掘りしていきたい。

 まず、今回の廃止を決定付けたのは「控除率(手数料の割合)の引き上げ」だった。4年前の2012年、オートレースの控除率が25%から30%に引き上げられた。これは、少しでも利益を生み出そうという発想だったが、ファンにしてみれば、払い戻しに回される率が低くなるため、以前なら7.5倍だったオッズが7倍に下がるといった事態を招いた。

 これにより大口客が離れ、結果的に売り上げは大幅に減少した。これは、公営競技がやってはならない“劇薬”であったといえる。

 この控除率の引き上げをパチンコに例えれば、4店並んでいるパチンコ店のうち、1店だけが「釘を締めて、出玉率を下げます」と公表したようなものだ。そのため、公営競技の仕組みを理解するオートファンの足を遠ざけてしまった。

「競輪や競艇のほうがまし」と語るファンもいれば、「無言の抵抗を続ける」というファンもいたが、控除率の引き上げが船橋オート廃止にとどめを刺したかたちになった。

「施行者(千葉県と船橋市)は車券を買ってはいけない立場だけど、本当は買ってほしいよね。そうしないと、ファンの気持ちがわからない。だから、こんなバカな決定をしちゃうんだ」とは、競馬や競艇が好きな某オート選手の弁である。

 船橋オート廃止の決定後、オートレース施行者は、SG(スーパーグレード。競馬でいうG1レース)と特別G1(競馬でいうG2レース)の2連勝単式(1着、2着の組み合わせを着順通りに当てるもの)に限り、払戻率(売り上げから配当に回る割合)を70%から80%に戻したが、時すでに遅しである。

 また、ここ数年、選手会は賞金の引き下げをのんで船橋オートの存続を訴えてきたが、「前の選手を追い抜いても、賞金は3000円しか変わらない」(某選手)との言葉通り、賞金引き下げは選手のモチベーションを下げてしまい、熱いレースを望むファンの期待に背く結果となった。

不可解な選手会の選挙協力ストップ

 船橋オート存続を訴え、現役レーサーである梅内幹雄氏が船橋市議会議員選挙(定数50)に立候補、船橋市のオートファンの支持を得て当選したのは、15年4月のことだった。

 当時、筆者は市議会議員となった梅内氏にインタビューして、その意気込みを記事にした。船橋市在住の筆者も、梅内氏に票を投じた1人である。<

 しかし、この時、ちょっとした違和感を抱いた。選手会の船橋支部が全面的にバックアップするかと思いきや、「協力しない」という立場を取ったのだ。

 梅内氏が立候補を表明する数カ月前、船橋オート存続を訴える選手たちは、船橋支部長の永井大介選手を中心に船橋駅前などで署名活動を実施し、12万を超える署名を集めていた。

 船橋市議の当選ラインは約2000票だ。12万を超えた署名を思えば、選手の立候補に対する期待も高まったが、署名活動以降、選手会の動きはストップした。何があったのか、噂レベルでしかないため、ここに書くのは控えるが、筆者の目には「存続に向けて熱心に活動する永井選手についていく者が少ない」「選手たちは、施行者に圧力をかけられたのではないか」と映った。

 そんな中で立候補した梅内氏には、数名の選手が個人的に協力しただけだった。

「オートレースに限らず、選手というのは個人事業主で、いわば商店街の集まりのような面がある。一枚岩にはなれないよ」(某選手)

 船橋オートが廃止になっても、選手たちはほかの競技場でレースを続けなければならないが、その人事権は主催者が握っている。そのため、「廃止したい」と考える人たちが選手会に圧力をかけたとしても不思議ではない。それどころか、当然の行為ともいえる。

 ファンの支持を集める選手たちが一枚岩になれない構図は、今回の廃止を止められなかった要因の一つだ。全国で6場(現在は船橋が廃止され5場)しかなかったオートレースですら結束できないとなると、競輪や競艇ではなおさら一枚岩になるのは難しいだろう。

 当選した梅内氏は孤軍奮闘、さまざまな資料を読み込んで船橋オート存続に力を尽くしたが、残念ながら、議会における「1対49」の図式を変えることはできなかった。

船橋オートの廃止は、ファンにも責任がある

 オートレースを含めた公営競技がやらなければならないこと。それは、「ファンが負けても納得できる」環境づくりや番組づくりだ。B級グルメを集めて場内の食べ物を魅力的にしたり、埼玉県の川口オートレース場のように豪華な施設をつくったり……。ナイター開催を実施すれば、会社帰りに女性と一緒に足を運ぶこともできるだろう。

 20年以上前の競馬ブームでは、競馬場に女性の姿が多く見られたように、「女がいれば男も集まる」のがギャンブル場だ。

 また、120メートル以上のハンデ戦や女子レーサーの活躍もあり、近年のオートレース番組はおもしろく、選手との距離も近くなっていたが、そのおもしろさを伝えるためのPRが不足している感が否めなかった。

 前回記事で、船橋オートの最終日に集まったファンが、森田健作・千葉県知事に「帰れ」コールを浴びせたことをお伝えしたが、それを聞きながら、「私を含め、オートから足を遠ざけたファンにも責任がある」と考えずにはいられなかった。

 オートレースの全盛期にあたる1990年頃は、まだ携帯電話やインターネットが一般的ではなく、文化や趣味も今ほど多様ではなかった。しかし、現在はリアルもバーチャルも、あらゆるところに遊技場が存在する。当時とは比べ物にならないほど、公営競技の“ライバル”が増えているのだ。

 ギャンブル人口は、年々減っている。そう考えると、船橋オートの廃止は「時代の流れ」には違いない。しかし、施行者、選手、そしてファンが危機感を共有しない限り、公営競技の衰退は今後も続くだろう。寂しいながらも、そう感じずにはいられない。
(文=小川隆行/フリー編集者)

小川隆行/フリーライター

小川隆行/フリーライター

ライター・編集者。1966年生まれ。中山競馬場の近くで生まれ育ち、競馬場から徒歩5分の高校時代に競馬に目覚めて馬券買いを始め、ダイナカールに恋をする。拓殖大学卒業後、競馬雑誌編集者になり数多くの調教師、騎手、厩舎関係者、競馬予想家に取材を重ねてきた。主な著書に『アイドルホース列伝 1970ー2021』(星海社)などがある。

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