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パナマ文書、なぜ米国の政治家や富裕層の名前が「ない」のか?

文=森岡英樹/金融ジャーナリスト
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パナマ文書、なぜ米国の政治家や富裕層の名前が「ない」のか?の画像1ICIJ HP」より

 パナマ文書と呼ばれる中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した膨大な顧客データが世界の政治指導者や富裕層を震撼とさせている。舞台がオフショアと呼ばれる非居住者が匿名で簡便に法人を設立することができる特別な地域であることに加え、同事務所がタックス・ヘイヴン(租税回避地)に強い「世界の五指に入るペーパーカンパニーの卸売問屋」(外資系金融機関幹部)であるためだ。

 従業員500人以上、世界40カ国に拠点を持ち、世界の大手金融機関と提携するモサックは、世界の要人や富裕層、企業など約21万もの顧客に租税回避のサービスを提供している。

 パナマ文書を解析している国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によれば、自国の高い税金支払いを逃れるためにモサックを介してタックス・ヘイヴンにペーパーカンパニーを設立するなどし資産を移していた要人には、イギリスのキャメロン首相の父親やロシアのプーチン大統領の友人、中国の習近平国家主席の義理の兄などがいることが判明しており、現役の首相や首脳経験者など12人の関与が明るみに出ている。 

 自身が租税回避に手を染めていたアイスランドの首相は早々に辞任したほか、スペインの産業相も辞任に追い込まれた。ペーパーカンパニーを介した租税回避は合法的なスキームとの反論も聞かれるが、政治指導者が自国の税金支払いを回避する行為は道義上の批判を免れない。

米国全体がタックス・ヘイヴン?

 意外にも、日米の政治家の関与はみられない。なぜ、米国の政治家はパナマ文書に登場しないのか。

 まず米国では「国全体がタックス・ヘイヴンのようなもの」(野党議員)であるためだ。とくに税優遇の高い米国デラウェア州は世界のタックス・ヘイヴンのモデルといわれており、「フォーチュン500企業の6割、上場企業を中心に100万社がデラウェア州に法人登記している」(同)という。

 デラウェア州の税優遇モデルの生みの親は、デュポン一族である。デュポンが議会に働きかけて1899年に企業に有利で自由な会社法を成立させたのが始まりといわれる。その後、同州への企業登記数は増大し、州の歳入の約半分はこうした企業の税や手数料で賄われている。同州にはアップル、グーグル、コカ・コーラ、ゼネラル・エレクトリック(GE)など世界の約29万社が本社を登記している。

 こうした企業に有利な税制や会社法制を持つ米国の州は、デラウェア州のみならずワイオミング州など数多く、「全米50州すべてでなんらかの優遇税制が設けられている」(外資系証券会社)ほどだ。米国の富裕層が節税のためにわざわざ海外の不透明なタックス・ヘイヴンに資産を移す必要はないのだ。
 
 モサックから流出したデータ量は2.6テラバイト、ファイル数は1150万件を超える。発端となった南ドイツ新聞に持ち込んだ情報提供者がどういう人物であるのかは藪の中だが、ICIJは5月にも第2弾の分析結果を公表するとしている。世界の要人は眠れない夜が続きそうだ。その中に米国の富裕層がいる可能性は低いが。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)

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